| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-E-181  (Poster presentation)

小笠原諸島における絶滅危惧種の生息に重要な樹木種の種苗移動に関する遺伝的ガイドラインの策定

*鈴木節子(森林総合研究所), 須貝杏子(森林総合研究所), 加藤英寿(首都大学東京牧野標本館), 山本良介(京都大学大学院農学研究科), 井鷺裕司(京都大学大学院農学研究科), 川上和人(森林総合研究所)

 小笠原諸島の固有生態系を再生し、世界自然遺産としての価値を維持するためには、外来種の駆除が必要となる。しかし、外来種の一部は既に現在の生態系の中で重要な機能を果たしており、このような種を駆除すると、かえって在来生態系に負の影響を与えることがある。このような場合は、在来種の植栽を行うことで速やかに植生を回復させ、外来種が担っていた生態系機能が損なわれないよう配慮する必要がある。しかし、植栽に利用する樹木も小笠原諸島内で進化の途上にあるため、みだりに植栽をすると遺伝的攪乱を起こし、植栽樹木の進化性に影響を与える可能性がある。
 本研究では、絶滅が危機される動物の保全に必要な種を中心に8種(アカテツ、アコウザンショウ、キンショクダモ、シマイスノキ、シマモチ、シャリンバイ、ムニンノキ、ヤロード)の樹木を選定した。各植栽候補種について、小笠原における分布域を網羅するようにサンプルを収集し、マイクロサテライトマーカーを用いて種内の遺伝構造を調べた。その結果、それぞれの種の地域間での遺伝的な分化が明らかとなり、これをもとに遺伝的ガイドラインを策定した。一例として聟島・父島列島におけるキンショクダモの結果を述べる。キンショクダモは聟島列島と父島列島の間では優占する遺伝的グループが異なった。また、父島列島内でも島ごとに異なる遺伝的グループが優占し、弟島と兄島では島内でも南北で異なる遺伝的グループが優占する結果となった。このように小笠原では列島間や島間だけでなく、同じ島内であっても種苗の移動を制限すべき種が少なからずあることが示された。
 本研究の成果を世界自然遺産地域科学委員会や小笠原諸島固有森林生態系修復事業検討委員会などの各種委員会で共有することで、植栽木の遺伝的変異に配慮した種苗が確保され、樹木の進化性を妨げることのない植栽が可能になると期待される。


日本生態学会