| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-F-191  (Poster presentation)

瀬戸内海の基礎生産は過去100年でどのように変化したか?-陸域・外洋からの栄養塩供給の影響-

*槻木(加)玲美(松山大学 法学部), Kuwae, Michinobu(愛媛大学 沿岸環境科学研究センター), 谷幸則(静岡県立大学 食品栄養科学部環境生命科学科), 郭新宇(愛媛大学 沿岸環境科学研究センター), 大森浩二(愛媛大学 沿岸環境科学研究センター), 武岡英隆(愛媛大学 沿岸環境科学研究センター)

我が国最大の閉鎖性水域である瀬戸内海では、戦後、集水域の開発と共に1970年代以降、大規模な赤潮の発生が頻発し、富栄養化問題が顕在化した。このように沿岸域は、人間活動の盛んな平野部に隣接することから、陸域からの栄養塩負荷の影響を受けやすい。しかし、沿岸域では、陸域だけでなく、外洋起源の栄養塩供給がかなり多いことも判ってきた。驚くべきことに閉鎖的な瀬戸内海でさえ、約6割もの栄養塩が外洋起源と推定されている(武岡2006)。つまり、沿岸域の基礎生産は、陸域からと外洋起源の栄養塩供給の影響を受け変動してきた可能性が高い。しかしながら、これまで長期データが存在しないために、我が国の沿岸域で、基礎生産量が長期にわたりどのように推移してきたのか、全くわかっていない。
  そこで本研究では、瀬戸内海の基礎生産が長期にわたりどのように推移してきたのかを明らかにすることを目的とし、瀬戸内海別府湾の海底堆積物を用いた古海洋学的手法により、堆積物中の色素濃度や堆積速度、時間の経過に伴う色素の分解率を考慮して、年間の基礎生産量を反映する色素フラックスを再現した。再現された色素フラックスは1960年台から1970年代にかけて2倍に増加するが、1980年台後半には減少に転じること、しかし1990年代初頭に再び顕著に増加することが判明した。これらの変動要因を明らかにするため、気象条件や集水域環境に関する文献資料の解析を進めた。その結果、最初の70年代にかけての増加から減少への転換は、陸域からの栄養塩負荷の高まりにより、排出規制が強化され、負荷が低下したためと考えられたが、2度目の1990年台初頭にかけての増加は、陸域からの負荷では説明がつかず、外洋からの栄養塩供給の高まりに起因すると推察された。つまり、瀬戸内海の基礎生産は従来、想定されていた陸域からの栄養塩供給だけでなく、長期的には、黒潮の変動と関連する外洋起源の供給に対して敏感に応答して変動してきたことが明らかとなってきた。


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