| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-F-200  (Poster presentation)

知床岬で2007年から実施されているシカ密度調整後の植生回復と回復指標種の選定

*石川幸男(弘前大学白神自然環境研究所), 丹羽真一(さっぽろ自然調査館), 村上智子(村山ギソー), 渡辺修(さっぽろ自然調査館), 青井俊樹(岩手大学農学部), 佐藤謙(北海学園大学工学部)

北海道東部、知床半島先端部の知床岬では1980年代よりエゾシカが急増し、1990年代終盤には最大密度が約140頭〳平方キロまでに達して、特徴的な海岸草原と背後の森林に多大な影響が生じていた。世界自然遺産に登録された2005年以降、ユネスコから遺産地域にふさわしいシカ管理が求められ、2007年~2008年の越冬期から捕獲による密度調整が開始された。植物の生育期としては2016年夏で9シーズンが経過し、最近の密度は20頭〳平方キロ未満に保たれている。捕獲開始前の2003年5月に山地高茎草原と高山風衝地群落で、また2004年7月には亜高山高茎草原で、防鹿柵を合計で3ヶ所設定し、山地高茎草原では柵内、亜高山高茎草原と風衝地群落では柵内外で小面積の区画を設けて回復過程を調査してきた。また、背後の森林内では1haの柵内外と100mの帯状区を設けて調査してきた。今回は、おもに草原の回復概況と、ユネスコから求められているシカの個体数管理の効果を検証する指標を報告する。
山地高茎草原と亜高山高茎草原の柵内では、柵を設置した最初のシーズンから植被が回復したが、遷移はやや偏向している。風衝地群落の柵内での回復は緩やかである。柵外が調査されている亜高山高茎草原と風衝地群落では、捕獲開始後、数年してから緩やかに回復が始まり、前者では植被としてはほぼ回復したものの、後者の回復はわずかである。
 植生回復の過程で反応する種にも変化が生じてきており、現在ではシカの嗜好性と採食によるダメージの大きさの両面から影響の程度を区分し、影響を被りやすい種に着目している。調査開始当時に設定した小面積の区画では低頻度の種の評価が難しいことから、2014年からはライン状の長い調査区も設定して指標種を絞り込こんだ結果、回復速度の早いクサフジ、オオヨモギ等のほかに、頻度の低い大型草本であるチシマアザミ、シレトコトリカブト等の変化も把握可能となり、簡便に確認できる複数の種が選定されつつある。


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