| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-G-228  (Poster presentation)

気候変動によりマツ材線虫病リスク域は全球スケールで拡大するか?

*松井哲哉(森林総合研究所), 平田晶子(森林総合研究所), 中尾勝洋(森林総合研究所), 小南裕志(森林総合研究所), 田中信行(東京農業大学), 大橋春香(森林総合研究所), 高野宏平(森林総合研究所), 竹内渉(東京大学生産技術研究所), 中村克典(森林総合研究所)

 マツ材線虫病の被害は、日本、韓半島、中国大陸、台湾などの東アジア地域ばかりか、西ヨーロッパでも発生している。マツ材線虫病の被害リスクは温度依存性が高いことが知られており、国内ではアカマツの被害危険域をマクロスケールで予測するための指数として、MB指数が開発されている。MB指数とは、月平均気温15℃以上の積算値であり、MB指数が19未満の寒冷な地域は被害のリスクは低く、19~21はやや脆弱、22以上の温暖な地域はリスクが高い危険域とされる。今後の温暖化の進行によって、松枯れ危険域は北上または高標高域に拡大する可能性があり、北半球のマツ属の森林全体に広がる恐れがある。さらに気候変動によってマツ属森林の成立に適した気候条件自体が変化する可能性もある。よって本研究は、マツ材線虫病への抵抗性が低い21種類のマツの天然分布域を対象に、現在と複数のRCP将来気候シナリオ下における松枯れ危険域の変化をMB指数を用いて空間解像度30秒で推定した。また、対象種21種の分布予測モデル(Species Distribution Model、SDM)をMaxEnt法で種ごとに構築し、分布適域の将来変化も同時に評価することで、マツ枯れリスク域の変化とハビタットの変化を統合したマツ枯れリスク域評価を行った。その結果、例えば2070年代の平均気温が現在よりも約3.7℃上昇するシナリオ(RCP8.5)下では、解析対象としたマツ属の全分布域のうちの約50%がマツ枯れの被害リスク域になると予測された。さらにこの予測されたマツ枯れリスク域のうちの50%の地域は、マツの生存にも適さない気候条件になると予測された。これらの結果は今後、温暖化に伴う森林生態系サービス低下のリスクアセスメントとしての応用が期待される。


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