| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-H-260  (Poster presentation)

「動画標本」の運用に伴ういくつかの課題 – 研究者アンケートから

*石田惣(大阪市立自然史博物館), 中田兼介(京都女子大学), 西浩孝(豊橋市自然史博物館), 薮田慎司(帝京科学大学)

生物の動画を博物館の「標本」として収蔵し利用公開するしくみを作るには、権利処理や保管・公開方法などに課題が想定される。この課題を抽出するため、研究過程で動画を用いる動物行動学・生態学研究者にアンケートを行った(20〜80代、平均研究年数23年、有効回答45名)。
所有動画の累計時間数は1人平均577時間(標準偏差1475)、記録媒体ではデジタルファイルが所有者数・平均時間数とも最も多いが、DVやVHSも所有者が次いで多かった。アナログデータ(VHS等)を持つ研究者のうち、デジタル化している人数は27%で、その時間数は平均44%だった。
動画を標本としてリポジトリするしくみは93%が利用したい(条件付きを含む)とし、その理由で最も多いのは研究以外の目的(教育等)で役に立つ機会が増える、次いで研究内容を社会に広める機会になる、だった。動画を標本として提供した場合に第三者に許諾できる利用形態を尋ねると、博物館での展示や教育目的には寛容だが、ネット公開、営利目的、目的が予想できない利用には抵抗が強く、意図しない編集や改変を伴う利用への懸念があった。
他者が撮影した動画を教育目的で利用した経験がある研究者は56%で、研究目的での利用経験は20%だった。博物館に動画標本群があるとすれば、53%の研究者は自身の研究に活用できる(部分的を含む)とした。活用できない理由としては方法条件を満たさない恐れや探索の難しさが挙げられた。
今後のデータ量増加とそれに伴うメタデータ付与の手間、潜在するアナログデータのデジタル化は課題になるだろう。教育目的での利用という点では、動画標本には提供者・利用者双方のニーズがある。生物標本と同じような利用機会を想定するのであれば許諾条件の拡充が欠かせないが、提供者側の協力意識が必ずしも高いわけではない。ただ、オープンデータとして動画標本を位置づける研究者も多く、しくみ作りはこの流れを見据えたデザインが求められる。


日本生態学会