| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-H-262  (Poster presentation)

市民&地域博物館の協働が生物多様性及び伝統知のデータ収集に与える効果

*小林誠, 斎藤達也(十日町市立里山科学館キョロロ)

生物の分布や生態に関する情報は地域の生物多様性保全を講じる上で重要な役割を持つ。近年、各地で市民参加型生物調査が実施され、多くの生物情報が集積され始めている。これらの生物情報を活用する上で、市民参加型調査の利点・不利点の理解は欠かせないが、この点に関しての定量的な検証は十分ではない。本研究では、市民参加型調査と研究者のみでの調査を比較し、市民参加型調査の特徴を検討した。加えて、市民参加型調査が伝統知の収集に及ぼす効果についても考察した。

調査は新潟県十日町市松之山の里山内にある遊歩道にて3年間行われた(イベント名「花ごよみ調査」)。4~11月、固定ルートを毎月踏査し、開花が確認された植物種を記録した。ルートは年毎に異なる。市民参加型調査に先立ち研究者のみの開花調査を行った。なお、この市民参加型調査には人数制限、会費等はなく、各調査では1名以上の研究者が同行した。

その結果、3年間で計368種(亜種・変種含む)の開花が確認された。少なくとも1度は市民参加型調査でのみ記録された履歴を持つ種は211種、研究者のみ記録の場合は111種であった。記録された開花種数は、研究者のみの調査と比べ市民参加型調査で多く、その差は開花種数の多い月ほど大きくなる傾向があった。調査月や年により異なったが、一部の花色や生活型、用途は、市民参加時でのみ記録された種や研究者のみに記録された種を特徴づけた。緑色の花を有する等、比較的地味な種は、市民参加または研究者のみの調査のどちらかでのみ発見される場合がしばしばあった。加えて、市民参加型調査では、山菜や薬草の用途や言い習わし等、伝統知に関する多くの情報が収集された。

以上より、市民参加型調査は研究者のみでの調査と比べ多くの生物および伝統知に関する情報を収集可能であることが明らかになった。このことは、市民との協働が地域の生物情報の拡充に貢献しうることを示唆する。


日本生態学会