| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-H-269  (Poster presentation)

マレーシア・サラワク州における枯死根の分解特性と土壌圏の炭素動態との関係

*大橋瑞江(兵庫県立大学), 牧田直樹(信州大学), 片山歩美(九州大学), 久米朋宣(国立台湾大学), 松本一穂(琉球大学), 遠藤いず貴(兵庫県立大学), Lip Kho(Malaysian Palm Oil Board)

樹木の枯死根の分解は、土壌からのCO2放出をもたらすプロセスの一つであり、土壌の炭素貯留能力と深く関わっている。一般に、枯死根の分解速度には、根の形態や成分、土壌環境や分解に関わる土壌生物の種類などが影響する。しかしこれらの要因には生態系ごとに大きなばらつきがあり、各要因と枯死根の分解について統一的理解を得るためにはさらなる知見の蓄積が必要である。また、これらの要因が枯死根の分解を通して、土壌圏の炭素動態にもたらす影響は、いまだ殆ど理解されていない。本研究では、マレーシア・サラワク州の熱帯多雨林において、根のサイズと化学性、土壌深度、土壌生物集団の3つの要因に着目し、枯死根の分解パターンとその制御要因を明らかにした。さらに分解に伴う土壌からのCO2フラックスの変化を評価することを試みた。まず細根と粗根のリターバッグを土壌コア内の異なる深さに設置した。土壌コアは、シート無し、防根シート、防菌糸シートの3種で覆い、試験地に埋設した。これらのコアは2年間にわたり4回に分けて回収し、分解した根のバイオマスを求めた。さらにコアから出るCO2放出量を、毎月1回の頻度で測定した。また試験地の細根と粗根に含まれる主要な化学成分の初期値を求めた。本研究の結果、粗根は2年間で約80%が分解したのに対し、細根は60%しか分解しなかった。また粗根に比べると細根の方が、初期の窒素やリン、多くの微量成分において有意に高い結果が得られた。分解速度は異なるシートで覆われたコア間で有意に異なり、土壌動物及び根系、菌糸、細菌の各生物集団が、枯死根の分解にそれぞれ関与していると示唆された。防菌糸シートで覆った土壌コアにおいて、土壌からのCO2フラックスと根系の分解で失われた炭素量との間に明瞭な正の相関がみられた。このコアでは細菌以外の生物が除去されることから、土壌からのCO2フラックスの変動に細菌が大きく貢献していると予想された。


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