| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-I-276  (Poster presentation)

葉の糖分濃度とムササビの餌選択:コナラ属12種の夏期と冬期での比較

*伊藤睦実(首都大・生命), 田村典子(森林総研・多摩), 林文男(首都大・生命)

 東京都八王子市の山林に棲息するムササビは、餌としてコナラ属の樹木の葉をよく利用している。この地域に生育するコナラ属の樹種には、クヌギ、コナラ、ミズナラ、アベマキ、カシワなどの落葉樹や、ツクバネガシ、アラカシ、シラカシ、アカガシ、ウバメガシ、イチイガシ、ウラジロガシなどの常緑樹がある。食痕調査によって、コナラ属の中でもよく利用する樹種とそうでない樹種があることが明らかとなった。春から夏にかけては、クヌギ、ミズナラ、秋から冬にかけては、ツクバネガシ、アラカシなどが利用されていた。餌の選択性を定期的なセンサスによって得られた食痕の頻度と利用可能な餌頻度(樹種ごとの胸高断面積の合計で近似)から推定した結果、クヌギが最もよく食べられ、次はツクバネガシであった。
 ムササビは、葉に含まれている糖分などの栄養分が多く、総フェノール類などの防御物質が少ない樹種を選択して利用しているのではないかと考え、葉の成分分析を行った。その結果、夏期にムササビが最も好んで食べるクヌギの葉は、落葉樹の中でも糖濃度が特に高くなっており、ムササビは糖濃度の高い葉を好んで食べる可能性がある。一方、常緑樹しか利用できない冬期には、糖濃度は樹種ごとに大きな違いはなく、ムササビが糖濃度の高い葉を食べるという選択性は明瞭ではなかった。
 総フェノール濃度については、糖濃度が高い樹種ほど高くなっており、ムササビは総フェノール濃度の高い樹種を避けて食べるという傾向は認められなかった。一般に、葉の糖濃度が高い樹種ほど被食を避けるために防御物質である総フェノール濃度を高くしていると考えられる。コナラ属でもこの傾向は顕著であり、最も糖濃度の高いクヌギでは総フェノール濃度も最も高くなっていた。つまり、苦みの成分と考えられる総フェノール濃度よりは、甘みの成分である糖濃度を餌選択の基準として用いている可能性が高い。


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