| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-I-280  (Poster presentation)

ハワイフトモモにおける葉トライコームの適応的意義Part3―植物と昆虫の相互作用からの考察―

*甘田岳, 小野田雄介, 小林慧人, 北山兼弘(京都大学大学院農学研究科森林生態)

 ハワイフトモモはハワイ諸島に広く分布する優占樹種であり、多様な環境に適応して形質が著しく多様化し、適応進化のモデル樹木として注目されている。形質の多様性の中でも、葉トライコーム(葉毛)量の変異は特に顕著である。湿潤地では無毛個体も存在するが、乾燥地では葉重量の40%がトライコームである個体も存在する。トライコームの生態学的意義として、著者らはこれまで水利用効率や葉温への影響を検討してきたが、これらの効果は限定的である。そこで、本研究では、昆虫との相互作用に注目した。ハワイ諸島において単系統から適応放散したキジラミ(36種)は、ハワイフトモモのみを寄主とし、多様な形態の虫こぶを葉や枝に形成する。虫こぶ形成は葉の表面積を増加させ、乾燥ストレスを強めると考えられる。そこで「本種の葉トライコームは乾燥環境ほど虫こぶ形成を阻害し、乾燥適応に貢献している」という仮説を立て、検証した。
 調査はハワイ島全域の様々な環境の24集団において行い、各集団40個体のシュートを採集した。虫こぶを形態から3タイプ(Pit型、Flat型、Cone型)に分類し、シュート当たりの虫こぶ数を数えた。各タイプの虫こぶ数と、環境(年平均気温・乾燥指数)・葉形質(葉身量・葉トライコーム量)の関係を調べた。
 虫こぶはタイプごとに分布最適温度が異なり(Pit型:10℃、Flat型:17℃、Cone型:20℃)、多様な虫こぶ形態はキジラミの分布温度を反映している可能性が示唆された。サイズの大きいCone型とFlat型の数は葉トライコームが厚いほど有意に少なかった。この結果は、葉トライコームが大きい虫こぶの形成を抑制し、水の損失を防ぐことに役立っていることを示唆している。


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