| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-I-281  (Poster presentation)

森林性ネズミの虫害堅果選択メカニズムを検証する ―GC/MSとCTスキャンを駆使した供試実験―

*柏木晴香(名古屋大・院・生命農・森林保護), 市原優(森林総研関西), 木下峻一(ウィーン大・古生物), 佐々木理(東北大・博物館), 梶村恒(名古屋大・院・生命農・森林保護)

森林内における主要な貯食散布者であるネズミは虫害堅果も利用する。その選好性を精査することは貯食散布の実態解明のために必要である。ネズミは幼虫脱出後の堅果よりも幼虫入り堅果を好むと報告され、幼虫が子葉摂食分を栄養的に補完すると考えられてきたが、そのメカニズムは未解明である。本研究では、ネズミが堅果選択の際に用いるcueとして虫害堅果の匂いに着目し、1) 虫害堅果からどのような揮発性物質が放出されているのか、2) ネズミは特定の揮発性物質に反応し堅果を選好するのか、そして3) 揮発性物質と堅果の内部状態の関係は2) の結果を説明しうるかについて検証した。

クリの虫害堅果を用い、外観的特徴から幼虫の有無 (幼虫入り、脱出済み) と昆虫の種類 (ゾウムシ類、ガ類) を判定し、4カテゴリーに分けた。各堅果の揮発性物質をGC/MSで分析した後、虫害パラメータ (幼虫の個体数・サイズ、子葉の摂食率) をCTスキャンで非破壊的に定量化した。これらを健全堅果と共に森林内のネズミに対して同時に供試し、rejectした回数で各堅果への選好性を判定した。また、一部の堅果を供試せずに切開し、カテゴリー、虫害パラメータ、子葉の健全度 (6段階)、揮発性物質を確認して分析データと照合した。

その結果、1) 虫害堅果の揮発性物質としてBonerolとセスキテルペン類Camphor、Longifolene、trans-Caryophyllene等が検出され、2) 供試実験の堅果を主にヒメネズミが持ち去り、セルキテルペン類が多い堅果ほどrejectされた (= 選好性が低下した)。また、3) セスキテルペン類が多い堅果は、子葉の健全度が低く、幼虫による子葉の摂食率が高かった。

本研究により、セスキテルペン類の匂いはクリ堅果の子葉の質的・量的な劣化を反映し、ネズミの虫害堅果選好性に負の影響を与えることが明らかになった。また、従来の仮説 (幼虫による子葉摂食分の栄養補完) は、選好されたものではなく、結果的に生じうるものと示唆された。


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