| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
一般講演(ポスター発表) P2-I-285 (Poster presentation)
植物とそれを餌とする植食性昆虫は地球上で最も多様化しているグループの一つであり、生物多様性の創出・維持機構という生態学における大きな問いを考える上で重要な要素である。植物と植食者は防御と適応という相互作用の中で共進化的に多様化してきたと考えられているが、その具体的なメカニズムを示した研究例はない。本研究では防御物質としてフラノクマリンを持つミカン科植物と、シトクロムP450(CYP)による解毒機構でそれに適応しているとされるアゲハチョウ属の相互作用関係をモデルとして用いた。アゲハチョウの摂食選好性と食草利用、そして植物の化学防御形質の関係から、アゲハチョウにおいて、食草に対する適応形質であるCYPがフラノクマリンによる選択を受けているかどうかを検証することを目的として、摂食実験、化学防御物質の測定、両者の系統関係の比較を行った。
ミカン科植物10種とナミアゲハ Papilio xuthus、広食性植食者であるエリサン Samia riciniを用いた摂食実験とLC-MSの結果から、野外で食草として利用されにくい種はフラノクマリン総量が多く、これらの物質が有効な防御として効いている一方で、全てのフラノクマリンが防御として効いているわけではなく一部の物質に対してアゲハチョウの適応が起きていることが示唆された。また食草利用に関する文献情報と系統解析から、食草利用パターンの偏りが、植物のフラノクマリンプロファイルと関係することが分かった。これは、アゲハチョウの食草利用選択性がフラノクマリンに影響を受ける可能性を示唆する。以上から、フラノクマリンがアゲハチョウによるミカン科植物利用においてCYPに対する選択圧になっている可能性が示される。今後、複数種のアゲハチョウを用いてCYPのフラノクマリン解毒活性の測定と配列解析を行うことで、解毒機構の適応進化が起きた可能性を検証する予定である。