| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-J-299  (Poster presentation)

花の色や形と花弁表皮細胞の形態を比較する~訪花者の観点から~

*渡辺綾子, 種子田春彦(東京大学大学院理学系研究科)

被子植物の花は様々な大きさや形態、色を持つ。花の形には筒状や左右非対称、下向きのものなどがあり、これらの複雑な構造は訪花者の選抜に影響を及ぼしている。同時に、花被の表皮細胞も、大きさや凹凸の高さ、細胞表面にあるクチクラの縞模様の有無などは種によって多様であり、マルハナバチやハエはこれらの微細構造を認識し、凹凸が大きい花被片を好むという報告がある。東京大学構内に咲く100種以上の花被表面に関するこれまでの観察から、表面微細構造が、ひとつの花でも花弁の種類によって、また同一の花弁でも向軸側と背軸側や先端部と基部で異なることを確認している。こうした花内の表面微細構造の多様性の意義を考えるために、昆虫などの訪花者が降り立つlanding petalに注目し、その表皮細胞を調べた。Landing petalの多くには昆虫を誘引する斑点模様が存在するが、その模様の有無に関わらず凹凸の大きい乳頭型の表皮細胞が見られた。一方、典型的なlanding petalであるマメ科の花の翼弁や舟弁では、表皮細胞による顕著な凹凸は認められなかったが、旗弁を含むいずれの花弁でも目立ったクチクラの縞模様が存在した。下向きに咲く花では、昆虫が花被にしがみつくことで花にとどまるため、花被全体の表皮細胞の構造が訪花に影響すると期待される。花冠の先端にひっかかり構造があるイワナンテン(ツツジ科)などは平坦な細胞からなるが、ひっかかりがないスノーフレーク(ヒガンバナ科)は向軸側も背軸側も乳頭型細胞からなっていた。また、キリ(キリ科)やエゴノキ(エゴノキ科)ではtrichomeが花弁の先端に生えており、これらも訪花に影響する可能性がある。今回の発表では、上記の例を含む複数の虫媒花の構造と表皮細胞の形態を訪花者との関わりの観点から考察する。


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