| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-J-302  (Poster presentation)

ニホンジカによる樹木剥皮の嗜好性要因

*佐野淳之, 前田恵実(鳥取大学農学部)

 ニホンジカCervus nippon(以降、シカ)の生息密度が高くなると、森林に様々な負の影響を与える。特に、樹皮剥ぎは樹木の更新に影響を及ぼす可能性が高い。そこで本研究では、シカによる樹皮剥ぎの樹種選択性と樹皮剥ぎ行動の嗜好性要因を解明することを目的とした。
 鳥取県鳥取市用瀬町赤波の森林に12 m×2 mの長方形プロットを10ヶ所設置し、樹種、樹高とDBH、樹皮剥ぎのみられた樹木についてはその面積を調査した。シカの嗜好性がみられた樹種はリョウブ・ニガキ・アセビ・ヤブツバキ・ネジキの5種、ランダムに採食されていた樹種はアブラチャン1種、不嗜好性の樹種はコナラ・シロダモ・ソヨゴ・エゴノキの4種であった。このことからシカが樹皮剥ぎする樹種には選択性があると考えられる。シカが好んで樹皮剥ぎするのは樹高が4~8 mでDBHが5~12 cmの樹木であった。このことからシカはDBHが小さく樹高が低い樹木を優先的に採食していると考えられる。樹皮の成分分析は、Ca・Mg・N・K・Zn・Fe・Mn・Cu・P・Nの10元素を対象とした。これらの元素は哺乳類の体を構成している主要な元素である。シカによる樹種の選択性に最も影響を与える要因を特定するためにIvlevの選択性指数と各元素について重回帰分析をおこなった。その結果、Na・Zn・Mn・Nを用いた場合にすべての要因に有意性がみられ、R2の値は0.234(P<0.001)でモデルの有意性もみられた。各要因のt値はN・Na・Mn・Znの順で高かった。これらのことから樹皮の選択に最も影響を与えたのはNであると考えられる。
 以上より、シカが樹皮剥ぎする理由としては自身の栄養状態が悪くなると不足する元素を多く含む樹種の樹皮を選択して採食していると考えられる。


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