| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-J-303  (Poster presentation)

カメラトラップ法によるニホンジカの密度推定とその周辺植生について

*中村香織(長岡技術科学大学), 望月翔太(新潟大学), 山本麻希(長岡技術科学大学)

ニホンジカは食性の幅が広い草食性の大型哺乳類であり年増加率も高い。そのため、餌資源である植物に与える影響が大きく高密度地域では様々な問題が起こっている。シカの生息密度と植生の関係に関する研究は多くなされているがその多くが高密度状態になってからのものであり、移入初期段階においてシカが植生に与える影響に関する知見は少ない。新潟県に生息するシカは明治中期頃までに狩猟圧によって絶滅してしまったが、近年分布拡大により再移入が進んでいる。中でも糸魚川市ではシカが増加傾向にあり、植生への影響が懸念される。そのため、本研究では移入初期段階における同地域のシカの生息密度と下層植生の状況を把握することを目的とした。調査方法としてカメラトラップ法を用い、糸魚川市根知周辺に2016年6月から12月にかけて20台の自動撮影カメラを設置し、得られた動画から撮影日時、雌雄、頭数などを集計した。生息密度推定にはランダムエンカウンターモデル(REM、Rowcliffe et al., 2008)を用いた。また、下層植生調査としてカメラ設置地点の周辺に2m×2mの方形区を4ヶ所設置し、区画内の植物全種の同定、ブラウンブランケ法(Braun-Blanquet, 1964)に基づいた被度・群度、食痕、剥皮痕の有無について記録した。その結果、推定生息密度は0.36頭/km2であり、撮影されたシカの雌雄比も雄のほうが多かった。このことから、シカの生息密度はまだ十分に低く、シカの分布拡大の初期段階であると予想された。また、下層植生調査の結果、シカの食痕などが非常に少なかったことから、現段階では植生に与える影響も小さいと考えられた。また、調査区域ごとの出現種およびその被度を元に、階層的クラスター分析によって植生タイプを分類したところ、スギなどの常緑高木下のシダ類が多い植生環境場所でシカが撮影されやすいということが分かった。


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