| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-K-325  (Poster presentation)

遺伝構造の種間共通パターンの抽出と再現モデルの開発

*石濱史子(国環研), 角谷拓(国環研), 岩崎貴也(京大・生態研セ)

遺伝的多様性は、生物多様性の重要な要素の1つである。しかし、多くの生物種において種内の遺伝構造(種内変異や集団間分化の空間パターン)に関する情報がないのが現状である。そのため、たとえば、保護区選択の際にも、遺伝的多様性はほとんど考慮されていない。種内の遺伝構造の情報が不足しているのは、主に、サンプル収集と遺伝解析に多大な労力とコストがかかるためである。次世代シーケンサーの普及により大量の遺伝解析が容易になりつつあるものの、サンプル収集のコストが依然としてかかるため、全ての種で広域的な遺伝構造を実測することはほぼ不可能である。
限られた実測値を補う方法として、モデルによる補完が有効な可能性がある。個別の種の遺伝構造は、稀な長距離散布などの確率的事象にも影響されるので、それぞれの種について完全なパターンを再現しようとすることは現実的でないが、生態特性の似た種群では、共通する典型的パターンがあると期待される。
本研究では、日本列島での植物の空間的遺伝構造の生態特性に応じた典型パターンを再現し、遺伝構造の情報不足をモデル補完することをめざして、遺伝子の動態をシミュレートするモデルを構築した。モデルには、現在の遺伝構造に大きく影響を与える、過去の気候変動に伴う分布変遷や適応進化、移動分散プロセスを組み込んだ。
さらに、モデルの生成するパターンを現実的なものとするためには、実測値との比較を行い、検証とチューニングを繰り返すことが欠かせない。文献から遺伝構造の実測値の収集を行うとともに、遺伝構造の類似性の指標と、その指標値に基づくパターンの類型化法を開発した。
発表では、シミュレーションモデルで生成される遺伝構造が、気候変動や種内の遺伝的多様性にどのように応答するかというモデルの出力の基本的な挙動と、遺伝構造のパターン類型化法を文献から収集した実測データに試行的に適用した結果を報告する。


日本生態学会