| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-L-349  (Poster presentation)

食肉目のオスによる子殺しと性選択:生態的条件の異なる分類群を含む系統種間比較

*原野智広, 沓掛展之(総研大・先導研)

オスが同種の幼若個体を殺すという事例は、さまざまな動物で報告されている。オスの子殺しを説明する仮説の中で最も有名なのは、子育て中のメスを早く繁殖可能な状態に戻して、繁殖機会を増加させるという性選択仮説である。哺乳類の中でオスの子殺しが最も多く観察されている霊長目では、一般的に性選択仮説が支持されている。食肉目では、オスの子殺しが記録された種が霊長目に次いで多いものの、オスの子殺しによる性選択上の利益は限られた種でしか実証されていない。食肉目のオスの子殺しに関して、種によっては性選択以外の仮説が示唆されており、とくに鰭脚類(アザラシ科、アシカ科およびセイウチ科)では、偶発的で非適応的な行動という可能性が高いと考えられている。
系統種間比較を用いて、食肉目におけるオスの子殺しの進化が性選択仮説によって説明されるかどうかの検証を試みた。性選択仮説からは、オスが強い性選択を受ける種で子殺しが進化しやすいと期待され、性選択の強さは、体サイズの性的二型で表される。食肉目全体において分析すると、体サイズの性的二型とオスの子殺しとの関係は有意でなかった。しかし、鰭脚類以外の食肉類では、体サイズの性的二型の大きい種でオスによる子殺しが生じやすいという有意な関係が検出された。この関係は、鰭脚類では検出されなかった。これらの結果は、鰭脚類以外の食肉類では、強い性選択がオスの子殺しの進化を促進することと、鰭脚類のオスの子殺しは、性選択仮説で説明されないことを示唆している。さらに、生物群によって形質間の関係が異なる可能性があり、それらを包括した比較では、特定の生物群に存在する関係が検出されないということを例示している。


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