| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-M-385  (Poster presentation)

絶滅危惧種ユビソヤナギ群落の10年間の植生遷移

*菊地賢(森林総合研究所), 鈴木和次郎(只見町ブナセンター)

ユビソヤナギ(Salix hukaoana)は、日本の本州北部に生育するヤナギ属植物である。多雪地域の山地河川の上流域の狭い範囲でしか自生せず、融雪などの河川攪乱によって更新すると考えられるが、現在、山地河川の多くで河川改修が進んでおり、集団の存続が懸念されている。本研究では、ユビソヤナギ群落の遷移過程の解明を目的として、2002年から2016年にかけて、各自生地において植生調査をおこなった。6水系91箇所で、100~660m2の調査区を設置して毎木調査をおこない、そのうち35箇所では最長10年間の間隔をあけて再調査をおこなった。相対優占度をもとに被類似度を求めクラスター解析をおこなったところ、群集組成はオオバヤナギ優占型、ユビソヤナギ優占型、オノエヤナギ優占型、シロヤナギ優占型の4つに分類された。同一調査区はほとんどの場合、姉妹群となるか極めて類似した群集組成を示し、群集組成の経時的変化はほとんど見られなかった。6つの事例では群集組成に変化が見られたが、異なる群集組成タイプへ移行したのは1例のみであった。また、調査区の群集タイプは河床勾配との関連が見られ、勾配が急な箇所では主としてユビソヤナギ優占型、オオバヤナギ優占型が見られ、なだらかな立地ではオノエヤナギ優占型、シロヤナギ優占型が増える傾向にあった。継続調査で追跡できた個体について胸高断面積の成長速度を求めたところ、ヤナギ属植物のなかではユビソヤナギ・オオバヤナギの成長速度が早く、シロヤナギの成長は遅かった。後継樹種と目されるサワグルミやハルニレの成長速度が最も高かった。以上から、ユビソヤナギ群落の群集組成は更新時の立地に大きく依存し、各林分では後継樹種への遷移が進行していることが示唆されたが、10年程度では群集組成にはほとんど変化が生じないことが示唆された。今後、ユビソヤナギ群集の遷移についてさらに追跡をおこなっていきたい。


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