| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-O-415  (Poster presentation)

ブナの表現型可塑性とその地域変異

堀川慎一郎(神戸大学農学研究科), *石井弘明(神戸大学農学研究科), 明貝直晃(神戸大学農学研究科), 東若菜(京都大学フィールド科学教育研究センター), 新良貴歩美(神戸大学農学研究科)

 樹木は同種であっても地域間はもちろん個体内でも環境が異なることにより形態・生理的形質が異なることがわかっている。このような地域間,個体内でみられる形態・生理形質の変異を規定する要因は遺伝的要因と環境要因に大別される。また個体内の変異のように遺伝子が同じであっても環境に合わせて形態・生理的形質を変える能力を表現型可塑性という。樹木は固着性で長寿かつ巨大な生物であり、今日の樹木の生存繁栄には表現型可塑性を高め、より幅広い環境に適応するという方向への進化に依るところが大きいと考えられる。一方、表現型可塑性は同種内でも地域変異が見られることが示唆されているが、未だ詳細に研究した例は少ない。
 本研究では日本に広く分布するブナを対象に表現型可塑性の高さの地域変異を明らかにすることを目的とした。北海道から宮崎県まで計9地域のブナ個体にロープやタワーで登り、樹冠の最上部から最下部まで数ヶ所で葉を採取し、葉の面積、厚さ等の形質について光環境や高さに対する表現型可塑性を調査した。また先行研究にある日本海型と太平洋型といったブナの遺伝系統と地域の関係から表現型可塑性と遺伝の関係を解析した。
 葉面積については一部地域で、遺伝系統ごとで表現型可塑性の高さが一致したが、葉の厚さ、比葉面積などは表現型可塑性と遺伝との間に関係は見られなかった。この点から、光や高さに対する形態形質の可塑性は、遺伝ではなく地域環境が主要因となり、地域変異がみられると考えられる。一方どの地域でも個体最上部で比葉面積は約0.1cm2/gに収束していたことから、個体内における表現型可塑性に限界値があることが示唆された。


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