| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-O-429  (Poster presentation)

高山植生の展葉・紅葉フェノロジーの年変動と融雪時期・気象との関係―立山室堂と千畳敷(極楽平)の例―

*井手玲子(国立環境研究所), 小熊宏之(国立環境研究所), 尾関雅章(長野県環境保全研究所), 浜田崇(長野県環境保全研究所), 鈴木啓助(信州大学)

 地球温暖化により高山植物の展葉、開花、紅葉、落葉などの生物季節(フェノロジー)や分布域の変化が各地で確認されている。また、植物とそれを利用する昆虫や動物の活動時期のミスマッチなど、気候変動に対する高山生態系の脆弱性が危惧され、モニタリングの重要性が認識されている。多雪を特徴とする日本の高山帯においては積雪や消雪時期が生物の活動にとって重要な要因となる。そこで、消雪と植生フェノロジーの時・空間変動を高頻度・高解像度で把握するため、山小屋などに自動撮影デジタルカメラを設置し定点観測を行ってきた。
 本研究では北アルプス立山と中央アルプス極楽平を対象として、2009-2016年に立山室堂山荘(標高約2450m)から撮影した約18000枚と、2012-2016年に千畳敷(約2650m)から撮影した約11000枚の定点カメラ画像を用いた。各画像の画素毎に記録されているRGB三原色のデジタルカウント値を抽出し、統計的手法により積雪画素と非積雪画素を判別し、消雪過程を調べた。さらに、画像中に撮影されているナナカマドとダケカンバの画素について、RGBの合計値に対するGとRの割合をそれぞれ緑葉と紅葉の指標値として時系列変化を算出し、展葉や紅葉時期、紅葉の色の鮮やかさを定量的に評価し、気象要因との関係を調べた。
 立山・極楽平ともに2016年は気温が高く積雪量が最近数年間で最少だったため、例年よりそれぞれ約22日、約38日早い消雪となった。それに伴い展葉が非常に早く、落葉性植物の生育期間は最長になった。紅葉は最盛期を迎える前に落葉した個体も多く、全体に色付きが悪い傾向が見られた。紅葉時期は例年8月下旬から9月中旬の気温と高い相関が認められるが、2016年のように展葉が早い年には、葉の寿命を考慮して、気温に加えて展葉時期を説明変数とした回帰式により紅葉時期の予測が可能になると考えられた。


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