| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-O-432  (Poster presentation)

撹乱地適応か?ツツザキヤマジノギク・カワラノギク開花個体のロゼット

*中川さやか(京大院・農), 土畑重人(京大院・農), 井鷺裕司(京大院・農), 伊藤元己(東大院・総合文化)

植物の繁殖様式の中でも、繁殖に至るまでの年数や生涯の繁殖回数は多様であり、近縁種間でも異なる。二年生一回繁殖型の植物(二年生草本)の例では、一年目に根茎葉の栄養器官(ロゼット)を形成して越冬し、二年目に開花結実し枯死する。キク科シオン属のヤマジノギク種群Aster. hispidusは二年生草本とされているが、河原に生育するツツザキヤマジノギクにロゼットを持つ開花個体が観察され、多数回繁殖の可能性が考えられた。本研究では、シオン属の二年生草本とされる複数種・変種において、ロゼットをもつ開花個体がどの程度みられるか、また、ロゼットを持つことと生育環境との相関の有無を検証することを目的とした。ヤマジノギク種群内のヤマジノギク(草地・河原)、ツツザキヤマジノギク(河原)、ヤナギノギク(蛇紋岩地)と近縁種カワラノギクA. kantoensis(河原)を生育地で調査した結果、両種共にロゼットをもつ開花個体が見いだされ、その割合は、河原・蛇紋岩地に生育する集団の方が草地に生育する集団よりも有意に高かった。河原や蛇紋岩地は環境撹乱の度合いが草地よりも大きく、花茎の損傷等により当年の開花・結実が妨げられやすいと考えられる。このことから、開花個体が予めロゼットに投資しておくことは、撹乱環境下での適応的なリスク分散戦略であると解釈できる。さらに、草地に生育していた個体の中でも、花茎が切られた個体(上記解析では除外)は花茎が切られていない個体(上記解析で使用)よりもロゼットをもつ割合が有意に高かった。このことは、花茎形成個体であっても攪乱によりロゼットを形成するという可塑性を持っていることを示しており、これは、ロゼットを予め形成するという攪乱地適応を可能にした前適応であると考えられる。


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