| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-O-439  (Poster presentation)

キク科植物における生育地光環境の勾配に沿った気孔特性の変化

*見塩昌子, 彦坂幸毅(東北大学大学院生命科学研究科)

気孔の数とサイズは、葉の最大の気孔コンダクタンスを決定する。豊富な光を有効に利用するためには高い気孔コンダクタンスが必要とされ、明るい生育地では、より大きな気孔をより多く持つことが有利となる。しかし、実際には、生育地の環境勾配に沿った気孔特性の変化は一貫性に乏しい。これは、特性にかかる系統分類学的な制約や、気孔の数とサイズ間のトレードオフなどのためであると考えられる。本研究は、光環境勾配に沿った気孔特性の変化を明らかにすることを目的とした。2014、2015年の5月〜10月に、東北大学植物園とその周辺(仙台市)で、キク科林床種(10属13種)、林縁種(9属13種)、開放地種(23属32種)について、それぞれの種の3個体から若い成熟葉を採集した。葉の背軸面と向軸面について、中央部分をシリコンラバーで型取りし、顕微鏡下で、気孔密度、気孔開口部の長さ、表皮細胞密度を測定した。また、葉身の横断面切片を作成し、顕微鏡下で葉身の厚さを測定した。
 開放地種のほとんどでは葉の背軸面と向軸面の両方に気孔が観察されたが、林床種と林縁種では、気孔は背軸面だけに存在した。背軸面の特性を比較すると、気孔開口部の長さは生育地間で変わらなかったが、表皮細胞密度および気孔密度は、林床種に比べ開放地種で有意に高かった。気孔開口部の長さは表皮細胞密度に対し負の相関を示し、生育地間で差異はなかった。一方、気孔密度は表皮細胞密度に対し正の相関を示し、表皮細胞密度が同等の場合、林床種と林縁種に比べ開放地種で有意に高かった。開放地種において、背軸面に対する向軸面の気孔密度の比は、葉の厚さとともに増加した。キク科植物においては、気孔密度とサイズ間のトレードオフという制約の下で、明るい生育地では、背軸面の気孔密度を増加させた上に向軸面にも気孔を配置することにより、高い気孔コンダクタンスを実現させていると予想される。


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