| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-P-442  (Poster presentation)

北限域と南限域のチョウノスケソウ(Dryas octopetala sensu lato)における葉形質および光合成特性

*関川清広(玉川大・農・生物環境), 和田直也(富山大・極東地域研究センター)

 チョウノスケソウ(Dryas octopetala sensu lato)は周北極植物の一種であり,高緯度北極ツンドラから中緯度高山にかけて幅広く分布し,個体群間で葉特性に変異が見られる.北極圏の個体群では,葉の窒素濃度(葉N)が低く,LMAが高く半常緑または常緑性であり,一方,極東地域の中緯度高山では,葉Nが高く,LMAが低く落葉性である(和田ら 2003).分布域が異なる個体群間で,葉形質に加えて光合成などの生理生態学的特性にはどの程度変異が見られるであろうか.本研究は,チョウノスケソウの北限域と南限域の個体群において,葉形質と光合成特性を比較し,それらの諸形質に見られる個体群変異を明らかにすることを目的とした.北限域に当たるノルウェーのスバールバル諸島・ニーオールスン(北緯78°,高緯度北極ツンドラ)における関川ら(2016,ESJ63,P2-105)のデータと,南限域に当たる日本の北アルプス・立山(北緯36°,中緯度高山)のチョウノスケソウ個体群におけるデータを比較した(LMA,葉N,最大光合成速度(Amax),暗呼吸速度(Rd),光合成速度のCO2濃度依存性).ニーオールスン個体群に対し立山個体群では,AmaxとRdは3〜4倍高かったが,両個体群の葉Nの差は小さかった.CO2濃度400 ppm下に対し800 ppm下での光合成速度は,ニーオールスン個体群では約1.3倍,立山個体群では約1.6倍になった.また,立山個体群の光合成の窒素利用効率(PNUE)はニーオールスン個体群より,約2倍高かった.中緯度高山の個体群はより短寿命の葉を持つために,高CO2への光合成応答が迅速で,高い光合成活性を反映してPNUEが高いと考えられる.これらの結果から,北限域と南限域のチョウノスケソウ個体群の生理生態学的形質には,葉フェノロジーに起因する変異が見られた.


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