| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-P-446  (Poster presentation)

陸上植物個体 の地上/根系呼吸比はサイズでおおむね決まる -系統と環境を超えた傾向ー

*森茂太(山形大学), 芳士戸啓(山形大学), 王莫非(山形大学), 相澤拓(山形大学), 芳賀由晃(山形大学), Gilang Citra(山形大学), 黒澤陽子(山形大学), 小山耕平(帯広畜産大学), 山路恵子(筑波大学), 石田厚(京都大学)

  水界で誕生した生命は、乾燥した陸域へと進化した。この過程で、植物は光合成によって地球の大気に酸素を加えた。これまで、酸素を利用した呼吸は単なる消費とされてきた。しかし、呼吸は生命を支えるエネルギーの変換過程である。植物はエネルギーを地上部と根系に分配して、両者の機能を保ち高い陸上適応能力を持った。一方、陸上植物の地上部は炭素を獲得して根系に供給し、根系は水を獲得して地上に供給し、両者は炭素と水の資源をめぐる相互作用系である。陸上植物は、この『地上部と根系の相互作用系』の上にある個体エネルギー分配システムとして陸域適応している。こうした陸上植物の創成メカニズムを検討するため、芽生え~大木の個体呼吸から生じるエネルギーフローのメカニズム理解を試みるmetabolic scalingの理論をめぐり議論が続いている。
  根を含む樹木個体呼吸測定は困難なため、これまで大木の呼吸は推定しかなかった。そこで我々は、根を含む芽生え~大木の個体全体の呼吸測定法を開発した。その結果、系統や環境が個体呼吸へ及ぼす影響は予想外に小さかった。さらに呼吸測定を重ねた結果、100種以上の植物に共通の『大個体ほど地上部/根系比が高く、小個体ほど低い』という主に個体サイズで決まる一定の傾向が現われた。この傾向を、ある1種内の小スケールで見た場合には栄養塩類や環境などによる生物学的制御で個体呼吸は『変位』する。しかし、驚いたことに上記傾向は芽生え~大木のワイドスケールで見た場合には、この傾向はシダ類、ヤシ類、作物、雑草、樹木などを網羅した全陸上植物に共通していた。これは、上記の系統や環境による『変位』がワイドスケールの傾向に吸収されたためである。すなわち、『地上部と根系呼吸のサイズによる制御』は『系統や環境による生物学的制御』とは独立に働く新しいメカニズムの存在を示唆している。このサイズ制御の仕組みを広い視点から理解する必要があるだろう。


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