| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-P-448  (Poster presentation)

湿生植物における通気組織内の酸素濃度とその温度応答

*中村隆俊, 中村元香, 新田矩譜流(東京農業大学生物産業)

 湿生植物は、通気組織を介した地下部への酸素供給(給気)によって、根圏の低酸素環境に適応する。低酸素環境下での根の呼吸は給気に依存しているため、根の呼吸で維持される様々な生理生態活性は根内の利用可能な酸素量によって律速されていると考えられる。従って、根内における酸素の利用可能性(アベイラビリティ)や根の呼吸特性(酸素消費特性)は、湿生植物にとって低酸素環境への適応戦略を左右する重要な要素となる。根内における酸素のアベイラビリティや消費特性に関する研究は少なく、その詳細は明らかにされていない。一般に根の呼吸速度は温度上昇により指数関数的に高まる。湿生植物の根圏は低酸素状態であるため、高温下では根における酸素の需要と供給のバランスが崩れ、強い酸素不足に陥る可能性がある。従って、温度上昇に伴う根の呼吸応答と根内酸素アベイラビリティの挙動は、湿生植物の温度環境に対する分布特性(例えば北方種と南方種)と何らかの関係を示すかもしれない。
 本研究では、温度上昇に伴う湿生植物の根内酸素アベイラビリティと根呼吸特性の変化を明らかにするために、北方種のヤラメスゲ・ホロムイスゲおよび南方種のヨシ・マコモを用いて、20℃条件と35℃条件下での水耕栽培を行い、根内酸素濃度や根呼吸速度等について調べた。根内酸素濃度は根の通気組織内の酸素濃度を測定対象とし、根の基部から先端にかけて3cm間隔で記録した。根の呼吸速度はシアン耐性呼吸速度についても測定を行った。
 北方種では温度上昇により根内酸素濃度が大きく低下し、35℃条件下での根内酸素濃度は20℃条件下よりも約20〜40uM低い値を示した。一方、南方種では、温度上昇による根内酸素濃度の低下はほとんど認められなかった。また、呼吸速度については、35℃条件下の南方種で大きく上昇したが、北方種では35℃と20℃条件下の間に違いは認められなかった。


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