| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) P2-P-449  (Poster presentation)

定点景観映像の長期記録の解析によるタイ乾燥常緑林における林冠フェノロジーと気候の年々変動

*前田高尚(産業技術総合研究所), 石田厚(京都大学), Samreong PANUTHAI(タイ国立公園野生生物保護局), Taksin ARTCHAWAKOM(タイ科学技術研究院)

 タイ東北部に位置する、タイ科学技術研究院サケラート環境研究ステーション内の森林観測塔(14°29’ 33” N、101°54' 59" E)において、乾燥常緑林(熱帯季節林)の林冠定点映像を日々記録している。林冠映像の視野はこの森林の優占種であるHopea ferrea Pierreでほぼ占められている。本報では、2006年から2014年までの映像時系列の解析から得られた林冠のフェノロジーと、気候の年々変動との関係について考察する。
 林冠のフェノロジーは、以下の方法で解析した(前田ら、 2004)。日々のRGBデジタル映像について、三原色の単色の輝度値(RGB)をそれぞれの3色の輝度値の合計(R+G+B)により正規化し、林冠が写っている範囲にわたって平均した値(正規化輝度値rg、b)を求めて時系列を作成した。サケラートの森林観測塔周辺では、雨季にHopeaの黄緑色の新葉が樹冠表面全体を覆うように展開する。この現象は、正規化輝度値の時系列では雨季にrが同時に急増し、極大値を生じるという形で現れる。
 過去9年間の映像から検出した、各年の正規化輝度値rおよびgの増加は、1) 雨季の連続的な降水により、深さ10-50cmの土壌水分量が約0.15m3/m3以上に増加し、約2週間以上維持された場合に始まる、2) 雨季前半の180DOY頃に始まる年と雨季後半の270DOY頃に始まる年に二極化しており、エルニーニョ現象などにより干ばつ傾向の年は後者になる、3) 熱帯収束帯が北上(180DOY)、南下(270DOY)しつつタイ中部を通過し、降水が増加する時期と合致していると思われ、エルニーニョ現象の場合、雨季前半の降水が少なく、土壌水分が充分に増加しないため、新葉の展開が熱帯収束帯の南下時期まで遅れるものと考えられる、ということが分かった。


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