| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


一般講演(ポスター発表) PH-40  (Poster presentation)

浮き葉形成によるデンジソウの生存戦略

*浅野菜乃佳, 木山宙香(ノートルダム清心学園 清心女子高等学校)

 デンジソウ(学名:Marsilea quadrifolia L.)は夏緑性の水生シダ植物であり、水田や沼などの流れのない水域で生育する。分布範囲はヨーロッパ・インド北部から東アジアで、国内では北海道・本州・四国・九州と奄美大島の低地に生育するが、本校では2010年度より、保護と生態研究を目的としてデンジソウの生育を行っている。デンジソウの小葉は、「地上葉」、「水中葉」、「浮き葉」の3種類があり、展開前のゼンマイ状の小葉がその後どれになるかは、主に「個体周辺の水位の高さ」という環境条件で決定される。特に浮き葉は、水位が個体の上限より高くなった際に見られるが、その発生メカニズムについての先行研究はない。そこで、本研究では、水性シダ植物であるデンジソウが、水位上昇という環境変化が生じた際、水面上に葉を浮かべるために葉柄を伸ばすしくみについて調べた。
 実験の結果、周りの水位が上昇すると、デンジソウは小葉付近の葉柄組織内の細胞分裂を促進させ、それらの細胞を成長させることで葉柄を伸ばすことを確認した。また、デンジソウのアクアポリン遺伝子の同定を試み、部分配列ながらも、昨年度発見したPIP型(細胞膜上に存在)に加えて、新たにTIP型(液胞膜上に存在)のアクアポリンも発見した。そして、アクアポリンを阻害すると葉柄の伸長が抑制されることを確認し、さらに、発見したアクアポリン遺伝子の一部において、PIP型、TIP型の両タイプとも、水位上昇により発現量が増加することも確認した。以上の結果から、デンジソウは水位上昇という環境変化が起こった際、アクアポリン遺伝子の発現量を増加させ、より効率よく細胞へ吸水させることで急激な細胞成長を促し、葉柄を伸長させていると考えられる。


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