| 要旨トップ | ESJ64 シンポジウム 一覧 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S05  3月15日 9:00-12:00 E会場

境界を越えて:中野繁を超えた河川生態学研究の到達点(Across the Borders: Stream Ecology beyond the Legacy of Shigeru Nakano)

占部城太郎(東北大)・小泉逸郎(北海道大)・谷口義則(名城大)

 2000年3月28日,バハカリフォルニアにあるアメリカ人研究者の調査サイトを訪れていた中野繁氏(京大生態研センター(当時))は海難事故に遭い突如消息を絶つ.それから早17年が過ぎた.中野氏は学部生時代(三重大学)からアマゴの行動様式や個体群動態に関する優れた記載的研究を行い,論文を発表するなど頭角を現していた.修士終了後,山間の小さな漁協や博物館に勤めながらイワナの研究に打ち込むも,北海道大学(当時)の石城謙吉氏に自らを売り込み,助手のポストを得るという異色の経歴を持つ.着任後,中野氏の研究はカート・ファウシュ氏(元コロラド州立大)との出会いと共同研究を通じて,「イワナ学」から「群集生態学」,そして研究のアプローチは「大規模野外操作実験」へと進化を遂げた.同時に,研究対象は「河川」を飛び出し,「森林」をも含むようになった.ビニールハウスで河川の上空を覆い,魚類の餌となる陸生無脊椎動物の河畔林からの供給を遮断することが,水生動物のみならず森林に棲む陸生動物にまで間接的に影響を及ぼすことを明らかにした研究は,当時の日本の河川生態学研究を世界に知らしめた.一連の研究論文は今もなお色褪せることなく,海外の教科書や国際誌に掲載される論文に引用されている.
 本シンポジウムは,中野繁氏の研究に多大な影響を与え,また与えられた,多くの研究者の一部を擁して開催する.ファウシュ氏は昨年12月に研究生活にピリオドを打ち大学を後にしたが,同氏の残したポストには日本人の菅野陽一郎氏が着任することとなり,幸運にも本シンポジウムに両者を講演者として迎えることができた.水と陸の「境界」を越えて繰り広げられる自然の営みを見つめ,あるいは分子,個体,個体群の間の「境界」を越え,国境をも越え,中野氏の示した研究の軌道から新たな高みを目指し,そして超えていった研究者らが現在の河川生態学研究の到達点を示す.

[S05-1] 中野繁とカート・ファウシュ:新たな河川生態学の黎明を築いた2人(Shigeru Nakano and Kurt Fausch: Two Pioneers who Shaped a New Era in Stream Ecology) 占部城太郎(東北大)

[S05-2] 河川生態学研究に果たした中野繁の貢献(Contribution of Shigeru Nakano to Stream Ecology) Kurt Fausch(コロラド州立大(元))

[S05-3] 中野繁の研究の未来(Legacy of the Study of Shigeru Nakano) 村上正志(千葉大)

[S05-4] 陸起源有機物が河川の生態系代謝に及ぼす影響(Roles of Terrestrial Carbon Subsidies in Stream Ecosystem Metabolism) 岩田智也(山梨大)

[S05-5] 時間的変化する資源補償が河川生態系に及ぼす影響:森林-河川生態系研究の新たな展開にむけて(The effects of Temporally Variable Resource Subsidies on Stream Ecosystems: Looking beyond the Nakano’s Legacy for Stream-Forest Linkages) 佐藤拓哉(神戸大)

[S05-6] サケ科魚類の生活史多型と個体群動態(Life History Polymorphism and Population Dynamics in Salmonids) 小泉逸郎(北海道大)

[S05-7] 分布南限域における在来カワマスの保全:境界を越えたアプローチ (An Across-scale Approach to Conservation of Native Brook Trout at the Southern Distribution Margin) 菅野陽一郎(クレムソン大)


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