| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S06-2  (Lecture in Symposium)

生物群集構造の変化が気候変動に及ぼす影響に関する考察:チベット高山草原における長期炭素循環研究から

*廣田充(筑波大学・生命環境), 唐艶鴻(北京大学・都市と環境学院)

チベット高原の広大な高山草原は、気候変動、炭素循環、生物多様性の3つの側面から、世界的にも注目されるフィールドの一つである。世界の第三極とも言われるチベット高山草原の平均標高は4,000m以上あり、地球温暖化等の気候変動の影響を受けやすい生態系の一つとして注目されている。また、チベット高山草原には大量の土壌有機炭素が蓄積しており、今日に至るまで主要な炭素蓄積の場であることに加え、気候変動によってその炭素吸収能力が変化することが指摘されている。さらに、今日のチベット高山草原は生物多様性が非常に高いものの、増加傾向にある家畜の放牧圧や気候変動の影響を受けて、生物多様性が変化する可能性が指摘されている。このような背景から、チベット高山草原は、気候変動が生物多様性にどのような影響を与え、その帰結として炭素循環に代表される生態系機能がどのように改変するのか理解するうえで最適な実証研究の場であるといえる。
チベット高山草原が有するこれらの特徴を活かして、演者らは2000年からチベット高原における植生限界を含む高標高域から低標高域まで様々なタイプの草原において気象観測とともに炭素循環および植生に関する調査を行っている。これまでの結果から、ここ数十年間では、展葉時期等のフェノロジーの変化は検出できたが、植生そのものの顕著な変化は検出できなかった。またチベット高山草原の炭素循環は、構成する植生の違いによって異なるが、植生の違いよりも放牧圧の大小によって炭素循環が大きく異なることが明らかになった。これまでところ、当該地域における気候変動によって植物群集の顕著な改変が検出できていないため、植物群集の改変を介した生態系機能への改変の効果は検証が難しいが、本シンポジウムでは既存データを踏まえて後者についても考察していきたい。


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