| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S07-3  (Lecture in Symposium)

伊豆諸島の花の進化生態学

*水澤玲子(福島大学)

 伊豆諸島に固有な維管束植物は、研究者によって多少の見解の差はあるものの、40程度と考えられている。このうち、種レベルで分化しているのは半分程度で、他のほとんどは変種レベルの分化に留まっている。その固有率は、伊豆諸島全体の植物目録がないために正確な値は分からないが、八丈島のフロラについて8%という値が推定されている。もう一つの日本の海洋島群である小笠原諸島では、維管束植物の約35%が固有種であることを考えると、伊豆諸島は海洋島でありながら、本土産近縁種との分化程度が極めて低いと言える。逆に言えば、伊豆諸島に固有な植物は、そのほとんどについて本土産近縁種が分かっているため、海洋島と本土の比較研究を行う上で魅力的な材料である。
 伊豆諸島と本土の間で、花生態学的な比較研究を最初に行ったのは、おそらく当時信州大学の教授であった井上健博士であろう。井上は、ホタルブクロとシマホタルブクロを材料に、伊豆諸島におけるマルハナバチ類の欠落が花の小型化と自家和合性の進化を促進したとする考えを提唱した。さらに他の送粉者についても、類似の傾向が見出せる可能性について言及している。例えば、チョウ類もハナバチ類と同様に、伊豆諸島の種数が本州と比べて少ないため、本州のチョウ媒花が伊豆諸島ではスズメガ媒花にシフトしている可能性を指摘している。
 本シンポジウムではまず、井上の研究成果と当時想定していたと思われる展望について紹介した後、筆者が行ってきたチョウ媒花(クサギ属植物)の花生態学的比較研究について述べ、最後に、遺伝解析による最近の研究の動向を紹介し、「本土に近い海洋島」としての伊豆諸島の魅力に迫りたい。


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