| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
シンポジウム S07-4 (Lecture in Symposium)
火山噴火後の堆積物で被われた大地から、生物の存在を感じることはないであろう。しかし、顕微鏡で見れば、例えば、アイスランドの溶岩堆積物では,堆積後3~5月で1 gあたり106の菌数が検出されている。この菌密度は通常の土壌の百分の一であり、速やかに微生物は定着すると言える。本発表では、そのようなパイオニア微生物の世界について、三宅島での調査結果をもとに紹介する。
微生物のエネルギー特性は無機栄養と有機栄養に分類される。有機物が乏しい火山噴火堆積物では、無機栄養菌が優位になる。キラウエア火山の堆積物の調査では、大気中の微量な水素や一酸化炭素を酸化する化学合成無機栄養細菌の存在がわかってきた。この細菌グループの独立栄養性によって、堆積物の炭酸ガスの吸収・固定が起こり、その活性は湿性降下の炭素流入の10倍以上に相当すると見積もられている。三宅島の2000年噴火堆積物は酸性で2価鉄を含むため、鉄酸化細菌が主要な化学合成無機栄養菌であった。堆積物から直接DNAを抽出して遺伝子を特定するメタゲノム解析を行うと、噴火堆積後3.5年~9.5年の試料ではカルビン回路の鍵酵素遺伝子(rbcL)の相対存在量が非常に高かった。その系統を調べると、やはり鉄酸化細菌が主要であり、三宅島環境の特徴と言える。パイオニア微生物のもう一つの重要な機能は窒素固定である。三宅島でみつかった鉄酸化細菌には窒素固定活性があり、メタゲノム解析でも、窒素固定遺伝子(nifH)の主要な系統は鉄酸化細菌であった。しかし、堆積物のエイジング(3.5年→9.5年)にともない、主要な系統は鉄酸化細菌から従属栄養細菌に遷移していた。メタゲノム解析では脱窒系の遺伝子も検出されたが、硝化の遺伝子(amoA)は検出限界以下であり、堆積後10年でも、硝化-脱窒-窒素固定からなる窒素循環はまだ完成していないと考えられた。