| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S10-5  (Lecture in Symposium)

絶滅危惧植物における遺伝的多様性の低下と有害変異の蓄積

*浜端朋子, 牧野能士(東北大学大学院生命科学研究科)

島嶼性の種は、大陸種とは異なる環境に適応する中で進化を遂げ、生物多様性の創出に寄与する一方、創始者効果や遺伝子流動の制限を受けて遺伝的多様性の維持が難しく、環境変化に対して脆弱である。国内の島嶼生態系の悪化が進行するなか、島嶼に分布する種の遺伝的特性を把握し、その消失を最小限にすることは、生物多様性保全における重要課題の一つである。小笠原諸島に生育する一部の固有植物は野生個体数が極めて少なく、絶滅が危惧されている。これらの種は、集団サイズの減少により自然選択の効果が低下してゲノム中に有害突然変異が蓄積しており、また、島内の限られた環境に生育していることから生育環境多様性と相関のあるゲノム中の重複遺伝子の割合も低い可能性がある。本研究では、小笠原諸島固有の希少植物と本州や琉球列島に生育する同属普通種のゲノム特性を調査するため、RNA-seqにより得られた転写産物の配列から、同義置換に対する非同義置換の割合、集団中の有害アミノ酸変異及び進化過程で生じた有害アミノ酸置換の割合、発現している全転写産物中の重複遺伝子の割合を推定した。その結果、希少固有種では非同義置換の割合及び集団中の有害アミノ酸変異の割合が同属普通種に比べて高い傾向が見られ、進化過程で生じた有害アミノ酸置換の割合も希少固有種において高かった。これらの結果から、希少固有種は、遺伝的浮動の影響を強く受けて有害アミノ酸変異の割合が同属普通種よりも高まっていることが示唆された。また、生育環境多様性の指標となる重複遺伝子の割合は、対象希少固有種において同属普通種に比べて低く、希少固有種が潜在的に環境変化に対して脆弱である可能性が示された。本研究で推定した有害変異と重複遺伝子の割合は、ゲノムワイドな遺伝子コード領域から環境変動に対する脆弱性を評価できる新たな指標として、種の保全管理への実用が期待できる。


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