| 要旨トップ | 本企画の概要 | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨
ESJ64 Abstract


シンポジウム S11-2  (Lecture in Symposium)

大気科学の視点から ー現場観測に基づく広域CO2濃度分布理解の進展

*澤庸介(気象研究所)

大気中の二酸化炭素(CO2)濃度測定は1950年代半ばに米国スクリプス海洋研究所のKeeling博士によって南極点とハワイのマウナロア山で開始され、現在では世界各国100以上の地点で濃度観測が実施されている。CO2濃度の微小な変化を検出するためには、高精度の測定装置と基準となる標準ガスの整備、慎重な大気試料採取とデータ解析が必要とされる。当初限られた地点で試料空気を容器に採取し実験室で濃度測定するフラスコサンプリングが主流であった観測手法も、現在では多点での連続観測も加わり詳細な濃度変動データが取得されるようになった。これら観測手法の進展とネットワークの拡大によって、大気中CO2濃度の緯度分布や増加速度の変動が次第に明らかになってきた。一方で観測の地域的な偏りは未だ大きい。大気中のCO2濃度観測地点は局地的な汚染の影響を避け海洋上の孤島や人為起源排出の影響を受けにくい遠隔地で実施されることが多い。欧州・米国・日本などでは比較的密に観測が実施されており、高高度・広域のデータを取得するために米国・日本では航空機観測も拡大している。しかし、CO2の放出・吸収の変動に大きく寄与する熱帯、大陸内部上の観測点は未だ限られている上、その変動性から観測データの広域代表性の評価も難しいのが現状である。このためCO2の吸収量・放出量の地域的/要因の見積もりには大きな不確実性が残っている。炭素循環のキーとなる変動プロセスを定量的に理解するためには、観測ネットワークを整備拡充し広域の濃度変動を長期に取得する必要がある。本発表では、現場観測によって明らかになってきた広域CO2濃度分布について紹介するとともに、近年実用化された人工衛星からの温室効果ガス観測に対する期待を述べる。


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