| 要旨トップ | 本企画の概要 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
企画集会 T02-1 (Lecture in Workshop)
近年のエネルギー課題を解決する手段として、再生可能エネルギーである風力発電に注目が集まっている。一方で、風力発電は鳥類を中心とする生物多様性に影響を与えることが示唆されており、建設の際に起こる地域住民との紛争は鳥類が中心となる事例も多い。開発による環境影響を軽減させるために環境アセスメント制度を用いた影響評価が行われているが、日本において評価手法は発達段階にある。
風車が鳥類に与える影響は、衝突、忌避、生息地の喪失の3通りに分類することができる。その中でも特に風車への衝突に注目が集まり、評価手法が多く研究されてきた。例えば年間の衝突数を評価するための衝突確率モデルの開発が行われてきたが、これらは特にガン・ハクチョウ類や猛禽類などの重要種に焦点が当てられてきており、他の重要種や一般鳥類への影響は評価されてきていない。また、衝突確率からPVAを行ったりPBRを算出することが望ましいが、このような解析に必要なデータや実際の事例は集まっていない。他の影響に関して、生息地の喪失に対する影響評価は生態系アセスメントの知見が利用されるなど一定の評価が行われている。しかし、忌避や障壁効果に関する知見はほとんど集まっておらず、影響評価手法の開発は遅れている。
今後の課題としてこれらの評価手法の開発を進めるとともに、複合影響評価と洋上風力発電に対する評価の確立が挙げられる。また、事業者が評価を行う現在の環境アセスメントの制度自体も見直す必要があると考えられる。現実的な努力量で効果的な影響評価のできる手法の開発や、国によるゾーニングの導入などの影響評価の制度化が求められている。