| 要旨トップ | 受賞講演 一覧 | | 日本生態学会第64回全国大会 (2017年3月、東京) 講演要旨 ESJ64 Abstract |
第5回 日本生態学会奨励賞(鈴木賞)受賞記念講演
被子植物の多くは送粉・種子散布・被食防衛など生活史の様々な場面で動物との相利共生関係をもつ。これらは独立の分野として研究されることが多いが、複数の関係を維持する植物も少なくないことを考えると、ある相利共生関係が別の相利共生関係の進化に影響を与える可能性がある。
この研究では、東南アジアを中心に分布するトウダイグサ科オオバギ属において、送粉共生と被食防衛共生に進化的関係が見られるか調べた。オオバギ属はほとんどの種がアリと被食防衛共生関係をもつ。多くは葉の花外蜜腺で日和見的にアリを誘引するが、一部の種はアリに営巣場所を提供し、極めて強く防衛される「アリ植物」である。送粉様式はほとんど調べられていないが、アザミウマ媒やカメムシ媒が知られており、アザミウマ媒はアリ植物種で多く見られる。私はまず幅広い種で送粉様式を明らかにし、被食防衛共生関係の影響が見られるか調べた。小苞葉に円盤状の蜜腺をもつ種において送粉様式を調べたところ、この蜜腺に誘引されるハチなどに送粉されることが明らかになった。形態や蜜の成分、発現場所が似通っていることから、葉の花外蜜腺と小苞葉の円盤状蜜腺は相同な器官であると考えられる。本種では、本来アリを誘引するための蜜腺を転用したことによって、新しい送粉様式を獲得できたのだろう。次に、アリの影響を強く受けると思われるアリ植物種において、防衛アリの送粉への影響を調べた。アリは防衛に役立つ一方、送粉者を追い払い送粉を妨げることがあるが、花序からアリを除去する実験を行ったところ、アリは送粉者アザミウマを追い払わないことが示唆された。次にアリとアザミウマを出会わせる実験を行ったところ、アザミウマが肛門から液滴を分泌すると、アリがアザミウマから逃避することが分かった。化学分析やアリの行動実験から、液滴に含まれるデカン酸がアリ忌避効果をもつことが示唆された。アリ植物オオバギ属では、アリに攻撃されにくい昆虫を送粉者とすることで強いアリ防衛を維持することができると考えられる。
以上の結果から、オオバギ属では送粉共生と被食防衛共生が互いに影響しながら進化することが示唆された。このような関係は、アリと被食防衛共生関係を持つ植物の進化を正しく理解する上で重要であるだろう。