| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) A01-05 (Oral presentation)
歌才湿原は標高約95m、面積4.5haの北海道南部の黒松内低地帯に残存する希少なミズゴケ湿原ある。しかし、残存湿原は国道によって南北に分断され、湿原周囲は排水路が掘られ排水による乾燥化が進行している。1996年と2015年の植生比較によりハイイヌツゲやササの拡大が顕著であることが明らかになっている。そこで残存湿原の劣化を防ぐために、排水路に堰を設け、地下水位上昇による湿原変化を長期的にモニタリングし順応的管理を行うことにした。昨年度は、堰上げ以前の現存植生と地下水位及び堰上げ以降の1年目の水位変化について報告した。今年度は、堰上げによる植生と地下水位の2年間の変化について報告する。
湿原周辺と湿原内に掘られた規模の異なる3本の排水路に直交する調査測線を2015年4月に設け、排水路からの距離に応じた複数個所で水位の継続測定を行った。2015年10月に北部の2本の排水路に堰を設け、調査測線上の水位変化を継続測定した。植生については、排水路の測線上を含む残存湿原全域の73個所で2015年8月に植生調査を行った。堰上げによる植生の初期変化を明らかにするため、同じ73箇所で2017年7月に再度植生調査を行い、堰上げ以前の植生と比較を行った。
解析の結果、季節変動による種組成の多少の違いはあったが、植生に大きな変化は見られなかった。湿潤な環境の指標種のミズゴケ類と乾燥した環境の指標種のササとハイイヌツゲの全体被度も有意な差は見られなかった。地下水位は、堰上げ後1年目は排水路から3m以内の近傍で水位上昇が大きかったが、堰上げ後2年目は排水路から10m離れたところでも大きい水位上昇がみられた。特に、北部の東側の排水路周辺での水位変化が著しく、堰上げによって7~38cmも上昇した。堰上げ後2年目は、植生に堰上げ効果は見られなかったが、水位上昇による今後の植生変化が期待される。