| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) A01-07 (Oral presentation)
渓畔林の間伐は渓畔林植生がもついくつかの機能を維持することにつながる.一方で,間伐の程度によっては下層植生に大きな影響を及ぼし,必要とされる樹木実生の更新を妨げることになる.今回の研究では,北米西海岸の渓畔林において約50%の間伐を施し,その影響が主要針葉樹実生の更新動態にどのように現れるかを検討した.間伐による林冠開放は,光環境の好転という意味でベイツガやベイスギの実生の発芽・定着を促進したが,ベイマツ実生には影響していなかった.一方で,光環境の好転は灌木種であるサーモンベリーやサラールの繁殖も促し,とくに湿潤環境において密な被覆を形成する灌木種の繁殖は針葉樹実生の定着を抑制することが示された.とりわけサーモンベリーは,一度定着すると長期にわたる安定した密な被覆を形成することが知られており,そのような場所では針葉樹実生の更新を抑圧する競争種となり得ることが示され,少なくとも渓流から30 m程度の範囲における伐採は避けるべきであることが示唆された.逆に,10年程度でサーモンベリーの被覆密度が低下したという報告もあり,その場合には針葉樹実生の更新が進む可能性も残されている.しかしながら,今回の調査地においては10年が経過してもサーモンベリーの繁茂の勢いは衰えたとはいえず,むしろ増加していた.ただし,渓流から離れた場所での針葉樹実生・稚樹の生育は良好であり,灌木種との競争から抜け出したと考えられる.