| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) A01-08  (Oral presentation)

河川における沈水植物群落の遷移過程とその要因の解明

*片桐浩司(秋田県立秋田中央高校, 秋田県立大学)

河川の氾濫原水域は、全国的に減少する沈水植物群落の数少ないハビタットのひとつである。沈水植物群落は遷移の速度が速く、短期間のうちに他群落へと移り変わっていくことが指摘されている。とくに氾濫を伴うほどの大規模な流量の増加は、ワンドやたまりの沈水植物の分布や種組成に著しい変化をもたらすことが推測されるが、洪水前後の沈水植物群落の遷移過程をモニタリングした研究はほとんどない。こうした背景から、本研究では2016年8月に上陸した3本の台風により観測史上最高となる水位を記録し、土砂災害をともなう大規模洪水がもたらされた十勝川を対象に、大規模洪水が沈水植物群落の遷移に与える影響について論じた。
調査は十勝川の0~40kmの河道内にみられる6箇所のたまりと5箇所のワンドでおこなった。各調査地では沈水植物の分布状況を記録するとともに、生育種の被度、本川からの比高、本川までの距離、成立後の年数を把握した。洪水前後の出現種データを用いてSorensenの類似度指数を算出し、洪水による種組成の変化を評価した。得られた類似度指数と各空間情報との対応関係を把握するために、相関分析をおこなった。
5箇所のワンドでは、洪水前に2科2種の水生植物の定着が確認されたが、洪水後、すべての種が流出した。6箇所のたまりでは、洪水前に5科10種の沈水植物をふくむ13科25種の水生植物が確認され、沈水植物の主要なハビタットとして機能していた。洪水後、たまりでは5科7種の水生植物が消失したが、種組成が大きく変化することなく群落が維持されるたまりが存在した。これらのたまりは、本川流路からの比高が大きく、本川までの距離が長いことで特徴づけられた。以上のことから、河道内には、大規模洪水の後にもかかわらず種組成が大きく変化しない水域が存在し、これには本川流路からの距離や比高が関係していることが把握された。


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