河畔植生の消失は水生動物に甚大な影響を及ぼすが，これを自然河川において実験的に示した研究例はほとんど無い．本研究では，河畔草本の陸上部分のみを透明ビニールで覆う処理区A，水中の根や茎まで透明ビニールで覆う処理区B，ビニールで覆わない対照区を用い，実験的被覆が水生動物群集に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした．さらに，実験的被覆を取り外すことにより模した河畔草本の復元が水生動物群集に及ぼす影響を明らかにすることも目的とした．同時に，河畔草本から河川に供給される落下陸生無脊椎動物およびこれらと魚類の食性の関係も定量化した．本研究の結果，河畔から落下した陸生無脊椎動物の湿重量は，対照区に比べ，各処理区で有意に少なかった．河畔草本を被覆すると，魚類及び甲殻類の生息量が著しく減少することが示され，特に処理区Bではその影響が顕著であり，10種が減少し，個体数密度も50%以上減少した．被覆を撤去した結果，処理区Bでは遊泳魚および甲殻類の個体数，重量密度がともに有意に増加した．さらに，処理区Aにおいても一部の遊泳魚と底生魚の個体数，重量密度が有意に増加した．草本の被覆は魚類の採餌メニューおよび採餌量にも影響を及ぼした．特に遊泳魚類では，対照区と比較して，両処理区ともに陸生無脊椎動物の摂食割合が約50%低く，逆にベントスの摂食割合が高かった．本研究の結果，河畔草本の消失は水生動物に負の影響を与え，魚類の餌となる陸生無脊椎動物の供給を絶つことが示された．