| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) B02-03 (Oral presentation)
化学肥料の大量施肥は、作物生産を増加させる一方で、水質の悪化や地力の低下を引き起こしてきた。今後持続的農業を目指す上では、有機質肥料の導入を推進する必要がある。有機質肥料を用いる有機農業が作物生産、土壌特性、および生態系に与える影響についてはヨーロッパを中心として多くの研究があるものの、アジアの温暖多湿な地域で土壌生態系と地上生態系を網羅的に調査した研究はほとんど行われていない。そこで、我々は、施肥管理以外は慣行農法に準じた害虫・雑草管理を行っている圃場を用いて、施肥形態の違いが土壌から地上にいたる生態系全体に及ぼす影響を明らかにすることを目的とした。
調査は、有機質肥料または化学肥料を25年間連続に施用している畑で行った。対照区として25年間無施肥の畑も調査した。土壌動物、徘徊性昆虫の採集にはツルグレン法とピットフォール法を、飛翔性昆虫の採集にはすくい取り法を用いた。有機物の分解はリターバック法を用いて調査した。同時に採集した土壌で含水率、窒素含有率、炭素含有率、pHを測定した。
調査の結果、施肥形態が異なると土壌の物理化学的性質が大きく異なること、有機物の分解速度が異なること、出現する節足動物群集の個体数に違いがみられることが明らかになった。
そこで次に、有機質肥料及び化学肥料が土壌や節足動物群集に及ぼす影響を以下の三段階に分け、一般化線形モデルを構築して関係性を評価した。1.施肥形態の違いが土壌の物理化学的要因に与える影響、2.土壌の物理化学的要因が有機物の分解および分解者である土壌動物に与える影響、3.土壌の物理化学的要因や分解者が捕食者に与える影響。解析結果に基づき、土壌の物理化学的要因と個々の生物種との関係性、分解者と捕食者の関係性について考察した。