| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-04  (Oral presentation)

農作物摂食個体のマッピングを目指したシカ糞の同位体分析:飼育個体を利用した検証

*原口岳(総合地球研), 幸田良介(大阪環農水研), 陀安一郎(総合地球研)

近年、シカによる農作物の加害が増大したとされており、シカによる農作物の摂食を定量評価する手法が必要とされている。糞内容の分析はその候補のひとつであり、中でも、糞分析から農作物摂食を定量的に評価する方法として、農作物が野外植物より高い窒素同位体比 (δ15N値) を示すことを利用することが考えられる。しかし、糞中の窒素は未消化物とシカの老廃物に由来し、餌のδ15N値が糞の値にどの程度反映されるかは不明である。そこで、糞の窒素同位体分析によるシカの農作物摂食の解析手法を確立することを目的として、シカ糞のδ15N値の決定要因を検討した。
与える餌の異なる19の動物園に依頼し、ニホンジカの毛・糞・餌の提供を受け、窒素同位体分析に供した。施与された餌はほとんどの園でイネ科やマメ科の牧草を含んでいた。いっぽう、一部の園では酵母を含む配合飼料、野菜、野外植物を与えており、窒素分として、窒素固定由来 (0‰前後) と、培地や施肥由来 (>0‰)、野外植物由来 (<0‰) のものが施与されていた。これら試料について、個体の性質 (性別・亜種の違い) およびシカ自身の体組織 (毛) のδ15N値・餌のδ15N値が、糞のδ15N値に及ぼす影響を検討した。
同じ餌を与えられた単一の動物園由来の37個体のδ15N値の解析からは、オスの毛δ15N値はメスよりも約0.3‰低かった。これに対し、毛のδ15N値は動物園間で最大8.5‰ 最小5.0‰、糞のδ15N値は最大7.4‰ 最小2.1‰の値を示し、性差以上に餌の違いが体組織と糞のδ15N値に影響を及ぼしたと考えられた。また、ほぼ同一のδ15N値を持つ餌を施与していた園での分析からは、餌に比べて糞は約2~3.5‰高いδ15N値を示した。これらの結果から、糞δ15Nの決定要因として、飼育条件下における餌のδ15N値に起因しない不確実性は2‰以内であり、同一地域内に存在する農作物と野外植物のδ15N値がそれ以上に異なっていれば、糞δ15N値がシカの農作物摂食の指標となりうると結論付けた。


日本生態学会