| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) B02-07  (Oral presentation)

地域再生と流域生態系再生の結合ダイナミクス

*谷内茂雄(京大生態研), 脇田健一(龍谷大社会)

流域管理の困難は、流域スケールでの課題の優先順位(例:生態系再生 > 地域再生)と流域内の多様な地域社会(コミュニティ)における課題の優先順位(例:地域再生 > 生態系再生)の不一致(ミスマッチ)から生まれる、と捉えることができる。この空間スケールに起因するミスマッチは、流域管理のみならず、大スケールの生態系管理に共通する課題である。本講演では、地域社会による地域の生物多様性(地域の身近な生きもの・自然)の再生活動が生み出す多面的な効果・波及効果によって、地域および流域スケールにおける生態系再生が可能となる条件を数理モデルによって検討する。
琵琶湖流域における事例研究から、地域の生物多様性(以下、生物多様性)の再生が地域再生につながると期待できる場合には、再生活動に参加する動機が生まれる。このプロセスがうまく動き出すと、地域生態系は生物多様性を豊かにする方向へと改変を受ける。たとえば、再生活動によって分断されていた地域生態系の連続性が回復するならば、地域生態系や地域生態系のつながりとしての流域生態系の再生も促進されることになる。この一連の連鎖的な再生プロセスを次のようにモデル化した。(1)地域社会における効用関数は、地域再生の効用成分α、それを増幅する流域再生の効用成分β、参加コストcの3者で決まる。(2)生物多様性の再生活動は、地域内の人的交流を直接促進することで地域再生の効用成分αを高め、多面的効果によって流域再生の効用成分βを間接的に促進する。この結合ダイナミクスで表される再生プロセスが定常的に高いレベルで維持されるための条件について議論する。


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