| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) D01-07 (Oral presentation)
熱水噴出域に見られる生物群集には、その特殊な環境に適応した多様な固有種が含まれている[1]。こうした生物群集は空間的に離れた熱水域を結ぶ幼生移動分散のネットワークによって維持されており、その広がりは数百km以上に及ぶ可能性がある。移動分散ネットワークの結合性は個々の熱水域への幼生供給量の違いにつながるため、熱水域が撹乱にさらされた際の復元力(レジリエンス)は移動分散ネットワークの結合性に大きく影響されると考えられる。しかし、こうした結合性と個体群や群集の復元力とのつながりは明らかではない。そこで、「元の状態に戻るのに必要な時間」と、「元の状態を復元することが可能な撹乱規模」という異なる復元力に焦点を当てた2つの研究を行った。
まず、西太平洋全域をカバーする生物-物理モデリングによる幼生移動分散の推定結果[2]をメタ個体群モデルに反映し、数値実験によって131地点の復元力をマッピングした。熱水域は結合性にしたがい大きく7つの地域グループに分かれたが、個体群が元の状態に戻るために必要な時間には地域グループごとに顕著な違いがあった。
また、撹乱による熱水域の消失を引き金とした群集組成の変化や絶滅規模を見つもるため、移動分散と競争のトレードオフと単純な多様化のプロセスを含む生態進化モデルを構築した。モデルのシミュレーションと解析的な計算結果から、熱水域の消失や環境収容力の低下によりカタストロフ的レジームシフトが起こり、大規模な絶滅の要因となる可能性が示唆された。
[1] Van Dover, C. (2000). The ecology of deep-sea hydrothermal vents. Princeton University Press.
[2] Mitarai, S. et al. (2016). Quantifying dispersal from hydrothermal vent fields in the western Pacific Ocean. Proceedings of the National Academy of Sciences, 113, 2976-2981.