| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) D01-10  (Oral presentation)

シカの餌植物選好性と栄養塩の循環がシカ-植物系の動態に及ぼす影響

*難波利幸, 磯野玲菜, 藤原吉司(大阪府立大学)

近年多くの有蹄類が世界的に過剰に増加している。Irruptionとよばれる急激な増加とその後の崩壊(crash)を起こす個体群も多い。過度に増えた有蹄類は、好みの植物(以後うまい草とよぶ)を食い尽くし、植物群集を有蹄類が好まない植物(まずい草とよぶ)が支配するものに変える。この講演では、植食者の餌の好みと栄養塩の循環が植物と植食者の動態に及ぼす影響を数理モデルによって調べる。(i)栄養塩は外部から一定の割合で供給されると仮定し、栄養塩、うまい草、まずい草、および植食者の簡単な力学系モデルを考える。(ii)まずい草は栄養塩の獲得効率が悪く,(iii)植食者は栄養に富んだうまい草を好んで食べ,(iv)植食者の排泄によって栄養塩の循環が促進されることを仮定する。栄養塩の流入率または植食者がうまい草を食う率が低いと,栄養塩を利用する競争に弱いまずい草が絶滅する。一方,栄養塩の流入率と植食者の成長率が十分に高い場合、植食者と2種の植物の共存状態が不安定化し,個体群の振動が現れる。2種の植物に対する植食者の嗜好性が極端に異なる場合は,植食者の急増・急減に続いてうまい草が枯渇しまずい草が優占する変動パターンが現れる。これに対して,栄養塩の高い循環率が引き起こす振動は穏やかで,うまい草の枯渇とまずい草の優占は起こらない。したがって,同じく系を不安定化する要因であっても,嗜好性の違いと栄養塩の速い循環は異なる種類の振動を引き起こす。植食者がうまい草しか食わないときにはうまい草は決して絶滅しないが,植食者の嗜好性が弱く,ある程度まずい草も食うときには,栄養塩の流入率が高くなると,まずい草ではなく、よりうまい草が絶滅する。つまり,植食者がまずい草だけに頼って存続できることは,うまい草にとっては好ましいことではない。また,栄養塩の豊かさは優占する植物の種に大きな影響を与える。


日本生態学会