| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) D02-07 (Oral presentation)
近年、世界的に見られる温帯林の発達には炭素シンクとしての機能や、生物多様性の促進が期待されている。森林遷移に関して、これまでの研究は地上部あるいは地下部の生態系特性に個別に着目したものや生物群集の組成を調べたものが多い。しかし、遷移に伴う地上部と地下部の特性の変化に同時に着目した研究や、消費者の生態系機能がどのように変化するのか調べた研究は少ない。そこで本研究では茨城県小川試験地とその周辺二次林において、105年間の自然二次遷移過程で冷温帯林の地上部と地下部の特性がどのように変化するのかを調べた。また、森林の代表的な消費者であるアリ群集の食性の変化を餌選択実験や炭素窒素安定同位体、放射性炭素同位体を用いて調べた。地上部バイオマスは50年の間増加し、105年でほぼ一定となった。一方、土壌の純窒素無機化速度も同様に50年まで増加したが、それ以降は硝化速度の低下のために減少した。土壌微生物呼吸やpHなどその他の地下部特性は林齢と明瞭な関係を示さなかった。このことは森林の地上部の発達には窒素動態が重要であることを示している。アリの種数は林齢によって大きく変わらなかったが、その種組成は林齢やリターの窒素濃度、土壌微生物呼吸によって影響を受けることが示された。また、餌選択実験の結果、遷移が進むにつれてアリ群集は動物質の餌(ツナ)に比べて植物質の餌(ハチミツ)を好むようになった。この選好性の変化は花外蜜など植物質の餌資源の遷移に伴う減少を反映していると考えられた。アリ類の同位体組成は種間で有意な差を示したが、林齢や林齢とアリ種の交互作用では有意な影響は見られなかった。このことから、大きな植生の変化があるにも関わらず、森林の遷移過程においてそれぞれのアリ種は炭素窒素循環に果たす役割を維持していると考えられた。