| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) D02-11  (Oral presentation)

農家によって違う化学肥料と堆肥の施用量

*三島慎一郎(農環研)

生態学会において、有機農業や環境保全型農業(特別栽培)を行っている農地をフィールドとして研究成果が語られるようになってきた。しかし2010年に有機農業を行っている農家は総農家数253万戸中1.2万戸に過ぎず、栽培面積は461万ha中6万haに過ぎない(農林水産省生産局 2013)。同資料には環境保全型農業を行っている農家は有機農業を含め20万戸と記しているが全農家の8%を占めるにすぎない。では極普通の平均的な農家がどれだけの化学肥料や堆肥を施用しているか、は十分に明らかになっていない。本研究では、2008年から2012年にかけて農林水産省が取りまとめ役で行われた土壌炭素事業で、様々な作物に与えられた化学肥料、各種家畜ふん尿堆肥の施用、即ち肥培管理に関する調査票から、実施農家によるデータの歪みを可能な限り補正して、平均的な農家ではどのような肥培管理を行っているのかを解明した。また、その過程で専業・兼業農家、耕種農家(家畜を飼養せず食飼料生産を行っている農家)・畜産農家でどれくらい、どんな家畜ふん尿堆肥を与えているのか、という中間段階から見えてくる肥培管理の違いに関して、さらに地方による違いも含め算定した。対象年は調査の中間年である2010年とした。日本の全農家が施用した家畜ふん尿堆肥の量は、生鮮重量で24.4TgFW、その中には炭素・窒素・リン・カリウムがそれぞれ837GgC, 53GgN, 26GgP, 67GgKが含まれる。排泄から完熟たい肥になるまで消失の最も少ないリンについてみると、排泄されたリンの22%が利用されているに過ぎない。化学肥料の需要量は410GgN、131GgP、257GgKであり、家畜ふん尿堆肥で化学肥料を全量代替することは出来ない。その中での耕種と畜産の専業農家では施用する堆肥量に違いがあり、同様に耕種農家でも専業と兼業で違いがある。これらに至る内容を提示しつつ、どう農地は肥培管理されているかを明らかにして、農地の肥培管理に関して基本的情報を提供したい。


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