| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-01  (Oral presentation)

カマキリを利用するハリガネムシの性依存的寄生戦略

*黒田剛広, 高見泰興(神戸大学大学院)

寄生者は質の低い寄主の回避や操作を通じて,寄主から効率よく搾取するような適応進化を遂げると考えられる.性は種内の個体変異をもたらす最も大きな要因の一つであるため,寄主の性は寄生者の適応度を左右する要因となりうる.性的共食いをする生物は,寄生者にとって寄主の質が雌雄間で著しく異なる点で特異である.性的共食いを伴う種の雄は一般的に雌より小さく,寄主としての栄養的価値の低いことに加え,共食いされるリスクがあるため,その寄生者は大きなコストを被る可能性がある.一方,性的共食いを伴う種の雌は,体が大きく栄養的価値が高いことに加え,共食いによってさらなる栄養資源獲得が可能なため,その寄生者にとって好ましい寄主であると言える.しかし,このような寄主の質の変異に応じた寄生戦略を検証した例は少ない.体サイズの性的二型と性的共食いを併せ持つカマキリと,その寄生者ハリガネムシは,寄主の質の変異が寄生者の適応進化に及ぼす影響を調べるための良い材料である.
カマキリの成長に対する寄生の影響を調べたところ,寄生された雄カマキリの死亡率は寄生された雌と変わらず,寄生による体サイズの減少は雌よりも少なかった.また,雄に寄生したハリガネムシは雌に寄生したものよりも小さかった.これは,雄に寄生したハリガネムシが,栄養搾取と自らの成長を抑制することで寄主の早期死亡を回避していた可能性を示唆する.
カマキリの配偶行動に対する寄生の影響を調べたところ,寄生された雄カマキリの配偶行動活性は低下し,雌からの逃避行動が増加した.また,寄生された雄カマキリは配偶相手を攻撃する傾向を示した.これらの行動変化は,雌との接触を妨げ,共食いによる寄主の死亡を避けるように機能しうる.以上より,ハリガネムシは寄主の性に応じた栄養搾取の調節や配偶行動の操作を伴う寄生戦略を進化させていることが明らかになった.


日本生態学会