| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-04  (Oral presentation)

スズメにおける二次性比の偏り:繁殖条件に応じた胚の性特異的死亡

*加藤貴大, 沓掛展之(総研大・先導科学)

 一部のスズメ属鳥類では、他のスズメ目鳥類と比べて一腹卵の孵化率が低いことが知られている(一部のスズメ属: 約6割, 他のスズメ目: 約9割)。発表者らは未孵化卵の特徴と、未孵化卵が生じる繁殖条件を明らかにするため、秋田県大潟村においてスズメを対象に野外調査を実施した。
 巣箱を用いた野外調査の結果、平均して6割程度の卵が未孵化卵だった。肉眼による観察では、ほとんどの未孵化卵において胚発生の兆候は認められなかったが、それらのうち8割以上が受精卵だった。また、これらのほとんどが雄だった。さらに子の性比を産卵時、胚発生時、孵化時、巣立ち時において縦断的に調べたところ、産卵時の性比には偏りが見られなかったものの、胚発生段階以降において胚の性特異的死亡により性比は雌偏りとなった。
 過去の理論・実証研究において、利用可能な資源量と子の分散様式の性差が子の性比を一方に偏らせることが示されている。スズメの巣立ち雛は、雌は分散性であり、雄は定住性である。スズメは単独でも集団でも繁殖するため、繁殖密度によっての資源競争(餌資源など)の強さは異なると考えられる。また、スズメは樹洞営巣性であることから、巣場所資源の競争にも曝されると考えられる。そのため、資源競争が激しい繁殖条件下においては、親は分散性である雌を多く巣立たせると予測できる。そこで、発表者らは操作的に低繁殖密度区と高繁殖密度区を作成した。また、スズメが利用している巣箱に対する巣場所競争者の訪問頻度を記録し、子の性比に対する繁殖密度と巣箱競争の効果を検証した。その結果、雄胚の死亡率は高密度区および巣場所競争が激しい環境下において増加した。その帰結として、胚発生段階の性比は雌偏りになった。
 本研究は、子の性特異的死亡が起こる繁殖条件を初めて明らかにした。予測に従った二次性比の偏りを示したことから、子の性特異的死亡が性比を調節する可能性が示唆された。


日本生態学会