| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) F01-05 (Oral presentation)
まぐろはえ縄漁船から排出される漁獲物残滓などの投棄物が、海鳥の餌になっているケースは多く見受けられる。漁業活動は海鳥を混獲し死亡させるため、野生生物保護の観点から問題となる一方、外洋において、はえ縄漁船から得られる餌が栄養学的に海鳥へどのような影響を与えているのかは、不明である。本研究では、外洋性海鳥であるコアホウドリについて、どのような個体が、どの程度漁船に依存し、栄養学的に正/負の影響を受けているかを検討した。
2011年10月と2012年9月に北西太平洋上で、船の周囲に集まったコアホウドリ35個体を捕獲し、各個体の体重・外部形態を計測後、採血し、初列風切り羽10番の先端約1㎝を採集した。飼育実験によって得られた換算式を用いて、血中総コレステロール値と跗蹠長から栄養状態(最後に餌を得てからの日数)を推定するとともに、血漿、血球及び羽根の窒素及び炭素安定同位体比分析を行った。
船の周囲に集まるコアホウドリの栄養状態(最後に餌を得てからの日数)は平均0.3日を中心に広くばらついた。コアホウドリの栄養状態は、δ13Cの値に影響を与えていなかったが(χ21 = 0.0038, P=N.S.)、δ15Nの値は、栄養状態と組織の交互作用に影響していた。直近の餌を示す血漿では栄養状態が良いほどδ15Nが高くなり(t=3.186, P<0.05)、その傾向は1か月前の同位体比、越冬期の同位体比と、過去に遡るにつれて少なくなった (血球、t=2.59, P<0.05および 羽根t=1.00, P=N.S.)。船の周囲に集まる海鳥の栄養状態にはバラツキがあったが、栄養状態の良い個体は、最近に高次栄養段階の餌を捕食している可能性が考えられた。投棄物との関連性について議論する。