| 要旨トップ | 目次 | | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨 ESJ65 Abstract |
一般講演(口頭発表) F01-06 (Oral presentation)
我々は野生のライチョウの雛が雌親の盲腸糞を食べる行動を観察した。食糞は様々な分類群で見られるが、多くの場合糞中に残された栄養素を再利用するためといわれている。一方、コアラなどに代表される一部の草食哺乳類の幼体では、生存に必須な腸内細菌を体内に取り込むために親の糞を食べることが知られている。しかし、鳥類の雛が親の盲腸糞を食べる行動については、観察例自体がとても少なく、その機能を明らかにした研究は行われていない。ライチョウは、鳥類の中では珍しくほぼ完全な草食で、発達した盲腸に様々な菌が共生している。ライチョウの雛は孵化直後から巣を離れ、自身の力で餌をとるため、ライチョウの雛による食糞はコアラなどと同様に腸内細菌叢を体内に取り込むためであると推察される。そこで、我々は域内保全の一環であるケージ保護事業で保護された野生の雛(親の盲腸糞を食べることができる)と、動物園で孵化し、人の手で育てられた雛(親の盲腸糞を食べることができない)における腸内細菌叢の発達過程を次世代シークエンサーを用いた16SrRNAの網羅解析を行うことで比較した。まず、野生個体では、3日齢から18日齢まで雌親の盲腸糞の食糞が確認された。また、野生の雛は、1週齢において既に成鳥とほぼ同じ数のOTU(operational taxonomic unit)が確認され、人工飼育された雛よりも早く複雑な菌叢を獲得していることが明らかになった。さらに、孵化1週齢と成鳥の菌叢を比較した場合、野生の個体の方が成鳥に似た菌叢を持っていることがわかった。これらの結果から、ライチョウの雛の食糞は腸内細菌叢を獲得するためでることが強く示唆された。本研究は、哺乳類と鳥類の腸内細菌の獲得方法が分類群を越えて共通の方法に進化した例として重要な事例であると共に、この種の野生復帰や抗生物質を使わない人工飼育方法の開発に向けた大きな手掛かりとなることがわかった。