| 要旨トップ | 目次 | 日本生態学会第65回全国大会 (2018年3月、札幌) 講演要旨
ESJ65 Abstract


一般講演(口頭発表) F01-07  (Oral presentation)

漁船のおこぼれにあずかる怠け者のザトウクジラ

*岩田高志(セントアンドルーズ大), 青木かがり(東大大海研), Patrick J.O Miller(セントアンドルーズ大), Martin Biuw(ノルウェー海洋研究所), Michael Williamson(ロンドン大学), 佐藤克文(東大大海研)

 ザトウクジラを含むナガスクジラ科の動物は、ランジフィーディングと呼ばれる様式で採餌することが知られている。ランジフィーディングとは餌の群れに向かって突進して餌を捉える、エネルギー獲得と消費が共に大きい採餌様式である。この採餌様式は、高密度の餌に対し効率的である一方、散在する餌に対しては非効率的であると考えられる。ハクジラ類や鰭脚類、海鳥類などの海洋高次捕食者は、漁具にかかった魚や漁具からこぼれ落ちた魚などを採餌するために、漁船の周りに集まることが知られている。一方でヒゲクジラ類においては、漁船周りで採餌するという報告はこれまでなかった。そこで本研究では、ヒゲクジラ類の一種であるザトウクジラが、漁船の周りで採餌をしているのかどうか、また採餌をしていた場合どのような方法で採餌しているのかを明らかにすることを目的とした。
 野外調査は、ノルウェー・トロムソ近海の漁船周りにいるザトウクジラを対象として実施した。彼らの採餌行動を調べるために、クジラの背中にビデオと行動記録計(潜水深度、遊泳速度、加速度)を吸盤で装着し、回収した。
 ビデオの映像から、装着個体が40分間漁船の周りにいたことがわかった。クジラが漁船周りにいる間、ビデオには漁具からこぼれ落ちたタラやニシンなどの多くの魚の死骸が散在する様子やそれらを狙う数頭の魚食性のシャチが映っていた。また、魚の死骸の周りで装着個体が上顎を上げる動きが見られたことから、この動きは魚の死骸を捉えていたものと考えられた。また加速度や速度の記録に、典型的なランジフィーディングの信号は記録されなかった。本研究で得られたデータは1個体からのものであるが、ザトウクジラの採餌のための漁船利用を示すことができた。これらの結果は、ザトウクジラが漁船周りに散在する餌を利用する時は、ランジフィーディングではなく、エネルギー消費の小さい方法で採餌していたことを示唆する。


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